第232回

10月1日「センス・オブ・ワンダ」

・PS2『ワンダと巨像』サンプル版をプレイ中。『ICO』スタッフの新作だ。

・木々の生い茂る山を見ていて、これがもしむくむくと起きあがり咆吼したら、とか。あるいは超高層ビルを見上げて、これが変形合体して歩き始めたら、とか。そういう妄想をしたことのある人は、ぜひプレイしてみてほしい。

・妄想に続きがあったことを思い出すはずだ。その世界では自分だけは死なない。怪獣の足の間をすり抜けて逃げ、背後からすばやくその体によじのぼる。首尾良く頭の上にたどりついて、手に持った剣で一撃、なんてね。そんなことが今リアルに疑似体験できるのである。

・テレビゲームの凄い機能とは、夢でしか見たことのない体験をそこに具現化することだ。としたら、誰もが意識下で妄想していながら、しかし昼間覚醒時にはすっかり忘れてる(ふりをしている)ようなことを見つけることがクリエーターにとっては重要な仕事だ。『ワンダと巨像』に流れる独特の情緒は、人の潜在意識を映し出しているからこそ美しい。日本のゲームクリエーターのセンスは相当なレベルに達していると思う。

10月3日「コンテンツバブルを消化する方法」

・「東京国際アニメフェア」事務局スタッフの方々と打ち合わせ(ちなみにこのイベントは都庁の『観光部』管轄なんですね)。

・去年と今年、コンペティションの審査委員を引き受けている。公募作品については1~2日缶詰になれば全て同一の環境で観ることができる。商業作品の、それもテレビで観られるような作品の評価の方がずっと大変なのだ。今年はHD録画を駆使してチェックしておこうと思い、早めに主旨を聞き、リストを頂いておきたいと頼んだのである。

・というわけで今深夜帯でオンエアされているアニメを再確認してその物量に腰を抜かした。例えば木曜深夜だけで12本オンエアされている。そしてこの状況はさらに加速すると思う。多チャンネル化が進めば進むほど、地上波のブランド価値は希少化する。つまり「深夜でも放送するだけでハクがつくし」という理由での使われ方をされてしまうわけである。

・紙媒体でこの状況を追い切ることは困難だろう。ネットの、個人運営のアニメ情報サイトの役割が重要になっていくはずである。そしてサイト管理人の方々はわかると思うけど、紹介だけでなく評価するためには個々の作品をものすごくマニアックにしっかり見ないといけないわけだ。審査のスタンスも同様である。仕事をあまりせずにのびのび暮らす以外に方法はないのである。

・そういう意味でも、オタクは早めに引退してひきこもるべきなのだろう。それからの方が自己実現できるかもしれないのだ。

10月4日「民主主義か魔女裁判か」

・講談社『ファウスト』編集長の太田さん来社。今、気になっている現象を聞かれ「サイバー人民裁判」と答えたら、その一言で意図が伝わり、以後その1テーマで話し込む。

・ネット上の祭りが、いろいろな現象・事件を喚起している。これは新しいスタイルの民主主義に繋がるものなのか、それとも魔女裁判と同様に暗黒時代の到来を警告するものなのか。そういう話。思うところ多々あるのだけど、僕としては評論ではなく、小説として提示していきたい。

・なんて言ってしまったらもう書かないわけにはいかない。作家はまず安請け合いすることが大切である。てなわけで春までこもります。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。