第265回

6月6日「石にかじりつく」

・机上でカタツムリを飼っている。これもまたエレガントな生き物だ。知覚機能
が人間と全く違う生物を見ているとイマジネーションが広がっていく。

・あの柔らかそうな口で固い生野菜をばりばり食べる。なんとコンクリートまで
かじり、飲み込んでしまう(殻の成分である炭酸カルシウムの補給のためにコン
クリのかけらや貝殻を入れておくのである)。ひきこもりをなめてはいけないの
だ(?)。


6月7日「仕事用にはこっちかな」

・ソフトバンクの織茂さんとヤフーの楢崎さん、来社。βテストがスタートして
いるSNS「Yahoo!360°」について詳しく説明してくれた。ヤフーの各種サービ
スとリンクさせて使えること、タグ機能で来客を緻密に選別しつつ情報提供でき
ること、などがポイント。コミュニティの中から、ファンサイトなどをオフィ
シャルに認定していったりもするらしい。

・特長は「実務性」のような気がする。日本のSNS市場はミクシィの独占状態
のように言われるが、まだまだ未開領域が残っている。ミクシィで友達や恋人を
作ったという話は多いけど、ミクシィをきっかけに仕事が広がったという話はと
ても少ない。例えばミクシィメールで飲み会の誘いがあったら嬉しいけれども、
フレンドリーなハンドルネームの方から就職の相談とか仕事の依頼がきたら、
ちょっとひいてしまうわけである。

6月8日「美しい日本人」

・昭和天皇裕仁をテーマにしたロシア映画『太陽』試写。政治的歴史的な描写は
少なく、終戦前後のすなわち神から人へと立場を移行していく時期の昭和天皇
(イッセー尾形)をたんたんと見せる。食事をし、服を着替え、「あ、そう」を
連発し、ナマズやカニについて生物学的知識を延々と語り、時に悪夢に悩まされる。

・イッセー尾形の演技は本当に凄い。昭和天皇の表情や口調、動作の癖などを、
文字通り神懸かり的に再現している。この映画では、その細部こそが全体でもあ
る。冒頭しばらくは眠くなるテンポだが、やがて面白くてしょうがなくなり、見
終わってすぐにもう一度見たくなる。そういう味わいがある。

・マッカーサーは、初めて会った天皇が誰かに似ているような気がするが思い出
せない。その後、撮影に応じた天皇を取り囲んだアメリカ人カメラマン達は
「チャップリンそっくりだ」とはやし立てる。その騒ぎに動じることなく微笑
み、求めに応じて帽子を取り、花に顔を寄せてみせる天皇。どのエピソードも、
日本国に対しての、そして昭和天皇に対しての敬意にあふれている。アレクサン
ドル・ソクーロフ監督はこの作品のために日本や天皇のことを10年もかけて勉強
していたという。

2006.06.19 |  第261回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。