第292回

12月21日「ひぐらしでお祭り!」

・アルケミスト社にて『ひぐらしのなく頃に 祭』(PS2)サンプルを拝見。原作の強い個性にひるまずに徹底的なブラッシュアップを施している。あの独特の絵は全て描き直され、効果音も楽曲も差し替えられ、セリフには声優の喋りが乗る。

・原作の全8作品に新エピソード2本が追加されているが、ただそれらを順番に並べたものではない。「選択肢」が置かれ、中盤以降は枝分かれしながら進行していく形に、組み直されている。これほどの改変に踏み切るには勇気が必要だったと思う。家庭用ゲーム機にデビューさせるにあたって、熱心なひぐらしファンだけでなく一般層にまで届かせたいという志が見える。もちろん内容は相当の分量になり、クリアまでには70~80時間かかるということ。FFやドラクエに匹敵するボリュームである。

・ところでアルケミストの新社屋ではいろいろ不思議なことが起こるらしい。今日は天井から少女(?)の生首がうっすらと浮かび上がってきていて、社員の方々が騒いでいた。

12月22日「工業製品化する映画」

・『ライアンを探せ!』観る。とても良い。んだけど、このパターンはそろそろマンネリかなあ。ハリウッド映画、特にフルCGアニメは「方程式」をもって企画を立案し決定する。必要な技術や期間などを全て入力し最大効率で収益がアウトプットされるものを残すわけである。ただしそのアルゴリズムはどの会社もだいたい同じだから、類似プロジェクトが溢れてしまうことになる。

・動物の話。それも、大自然と大都市の境界で右往左往する現代の動物たちの話が、今は模範解答になるのだ。なんでもできるジャンルだからこそ、企画の自由度は減っていくわけだ。商業性から外れたところで新しい才能が生まれてくることを期待したい。

12月23日「映像も吹き替え」

・『シャーロットのおくりもの』。あの子豚にはすごいトレーニングを積ませた、それでも一匹に一つの演技を覚えさせるのが限界だからそっくりな豚を何十頭も用意した、とコメントされてる。ウソでしょうほとんどCGだろ。けど、だとしたらすごい技術力だよね。

・何度も観る価値がある。そして、ぜひ吹き替え版も観てみてほしい。蜘蛛の糸で、ある文章が空間に描かれるシーンがとても重要なのだが、この、実写の空間をたゆたう文字が、吹き替え版だとちゃんと日本語になっているのである。

・実写映画でも、CG要素が増えるにつれ世界戦略がやりやすくなるということだ。そのうち、俳優の顔や服まで吹き替えられたりして。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。