第294回

1月13日「邦題は『ゴミ屋敷』でどう?」

・『モンスターハウス』。スピルバーグ+ゼメキスの最新作。アニメーションだが、どちらかというとSFX映画の延長にあるものだ。同じ3D-CGでもディズニー・ピクサー作品などセルアニメからの進化系にあるものとは分けた方が良いかもしれない。思春期を大きなテーマとし、屋敷を女体のメタファーとしてその「穴」の奥を恐怖の対象としているところなど、狙いはとても高いところにある。

・全てのふるまいをカンペキにイメージ通りにコントロールしたいという監督やプロデューサーの意向によりフルCGという手法が選ばれたのだろう。これならセットや大道具小道具を完璧に思い通りに作り込み、空間内を自由自在に移動するカメラワークで仕上げることができる。もちろん俳優の容姿も、動作も自在。

お化け屋敷に忍び込む子供達は典型的な現代アメリカン・キッズで、演技に一瞬の隙もない。しかし見れば見るほど気色悪くなってくるのは、それが、大人達がイメージするところの子供の姿だからだろう。モーション・キャプチャーの中の人は大人の役者だったのではないかと僕は疑っている。

・黒澤監督や小津監督が生きていたら実写やめてこっちに来ていたはずだ。ただし、映画はどんなに完璧を目指していても様々な要素であらわれてしまう「ほころび」にも魅力があると僕は思う。大林宣彦監督の『ハウス』が面白かったのは、女優たち(当時のアイドル)の演技があまりにも下手だったからだと今更気付いた。

1月15日「2.0をつければいいってもんだ」

・『ひらきこもりのすすめ2.0』書き上げた。結局、改訂というより書き下ろしに近いものになった。

・2002年に講談社現代新書から出した『「ひらきこもり」のすすめ デジタル時代の仕事論』は、発刊後その本文をプライベートブログに置いておいて、ときどき思い付いてはケータイからアクセスしてコメント(つまり自分つっこみ)をつけていた。そのコメント分がいつのまにかオリジナル分を越える量に達していた。今回はそれをまとめ直す作業がメインとなった。

・アマゾンにアップされ一部で物議をかもしている(?)講談社BOX太田編集長インタビュー原稿の完全版(?)も、ピッタリなのでここに収録した。本はこういうふうに自然体で仕上がっていくのがいちばんいいなー。

1月20日「むしゃむしゃ」

・阿佐ヶ谷のカフェ『よるのひるね』にて、「昆虫食のひるべ」という企画に物好き作家仲間で参加。素材のおいしさと原型を生かしたメニューは「カマキリ豆腐」「カイコさなぎ納豆」「むし差しちくわ」「ムシチヂミ」「ムシチゲ」など。

・たいへん爽快で有意義な時間を過ごすことができ、胸も腹もいっぱい。もう食糧難は怖くない。今後は季節ごとに近場でバッタやハチを「狩猟」したり自室にコオロギやゴキブリの「牧場」を作ったりしての食料調達が楽しめそうだ。

・ほ乳類が生き残りかつ進化してこられたのは虫という蛋白源のおかげであることは間違いないが、昨今、昆虫食がマイナーになってしまったのはなぜなんだろう。昆虫って都会でだってたくさん採れるし、見た目も栄養素も多彩。不潔なわけでもない。糞やゲロを食べて育つ家畜の肉よりは感覚的にもずっと清廉だし、処理もしやすいのである。

・こういう話題は受け付けない人もいると思うけど、興味のある人は主催者の昆虫料理研究会・内山昭一さんのブログhttp://musikui.exblog.jpを見に行ってみてください。なかなか深い思想に感心するよ。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。