第299回

2月15日「見る気ィ?」

・中野ブロードウェイの不二家ももちろん休業中なのだが、店の前でペコちゃんのコスプレして立ってる人がいてじんわりおかしい。「代わりに立ってるんです」のことである。もちろん舌はずーっと出しっぱなしである。いたり、いなかったりする。

2月16日「ケータイ小説って」

・と切り出した瞬間にフンと鼻を鳴らす人がほとんどで、あれが文学なのかどうかという話すら、始まらない。素人のティーンエイジャーが親指だけで書きつづった自分語り小説からヒット作品が続々と生まれている現象について、プロの出版人は、きちんと考察・検証するべきだ。稚拙なのになぜリーダビリティーが高いのか。タダで読める状況でなぜ多くの人々が単行本も買うのか。

・たいていの日本人は、物心ついた頃、読み書きを「お勉強」の一つとしてスタートする。文章の能力に点数をつけられることが当然だと思い込まされる。そして、そういう価値観の世界で勝ち抜いてきた学歴エリートの方々が、コンテンツの世界でも決定権を持つようになっている。文学は崇高なものであって作家というものは賢く偉くなくてはならないという信念は立派だ。しかしそれ以外の考え方を受け入れないと、お客は一気に移動してしまうだろう。

2月17日「傑作マンガを映像化するには」

・『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』観る。意外にも映画化は初。今はジョジョのことを書くチャンスだな。

・ゼロからものを作りはじめる時の心細さは、経験のある人ならわかると思う。自分のやろうとしてるものは本当に形になるんだろうか。こんなに妙な変なことを世間は理解してくれるんだろうか。その恐怖で、つい筆がすくむのだ。そこから先に進むために、酒や薬の力を借りてしまう人もいる。そういう時、『ジョジョ』を読み直すと、勇気をもらえる。こんなにも奇妙な話をこれほどまでに全力で、描いて描いて描き続けて、成功している人がいる。設定も、セリフも、ポージングも、言葉では説明しきれないほどに捩れていて、ばらばらで、なのに、その線の一本一本には全く、迷いがない。自分に才能があるのかという疑問に囚われ悩んでいる若者は多いと思うが、これ見たら半端なもやもやは吹っ飛ぶと思う。才能とは、自分を100パーセント信じることによって発露されるものなのだ。

・さて映画について。これほどの素材を使ってなぜここまでこじんまりと理性的にまとめてしまおうと思ったのだろう。無意味だからこそ有意義だったシーンが多くカットされ、パースも修正され、さらに重要なセリフやキャラクターがざくざくと削られている。90分という尺の限界はつらかったのだろうが、いくら原作要素をカットしても、映画は「映像ならでは」の演出によってそれを補えるはずなのだ。

・なんて意見はちょっと酷なわけである。これはもともとあまりにも動いているマンガなのであり、それをあえて映像化するのは難しいということなのかもしれない。ただしそんな試みとしては『AKIRA』という成功例があった。作者自身がディレクションするしかないということか。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。