第298回

2月9日「子供たち生きる生きる生きる」

・『それでも生きる子供たちへ』試写。ストリートチルドレン、HIV胎内感染児、少年兵士など様々な状況下に生きる子供たちを描くオムニバス映画。

・アメリカからスパイク・リー、中国からジョン・ウー等、7カ国から選出された監督たちが現地の子役を使って撮影している。現代の子供たちを、機械から生み出される製品として捉えるのではなく、一人一人に同じ目線でしっかりと向き合い、その苦しみや喜びをリアルに捉える。悲惨な現場ばかりなのだが、この方法で描き出されると子供たちは皆とても生き生きとしていて、痛々しくない。むしろこちらが元気をもらえるほどだ。

・原題は『オール・ジ・インディビジュアル・チルドレン』。子供たち一人一人が主人公、というコンセプトがここに明示されている。『それでも生きる子供たちへ』という邦題をつけてしまう感性には、哀れんでやるとか恵んでやるという「優しさ」を感じる。そういう目線の映像では、ない。

・貧乏でも子供たちが元気ならその国は大丈夫だと思える。少子化は金で解決できることではない。それからとても難しい作業かもしれないし文化的な大人の方々はナンセンスだと思うかもしれないが、字幕だけでなく吹き替えバージョンも作って欲しい。

2月13日「幽閉されてなおテロリスト」

・『幽閉者(テロリスト)』。伝説的映像作家・足立正生の、なんと35年ぶりの新作。60年代にアングラ映画界で注目を集めた後、パレスチナに渡って日本赤軍に参加してしまった、つまり本物のテロリストである。その後強制送還、投獄を経てのカムバックというわけだ。

・この作品は、1972年のテルアビブ空港乱射事件の犯行メンバーの中ただ一人生きて逮捕されてしまった岡本公三をモデルにしている。全体の90%以上は獄中の拷問シーンで、主演の田口トモロヲがひたすらのたうち回り、神経に障る不協和音が延々とかき鳴らされる。このノイズは、監督自身が35年間聞き続けてきたものかもしれない。痛みのリアリティーは凄まじい。頭の上に水を垂らし続けるだけの水滴拷問がなぜ苦しいのか、これを見れば理解できる。

・団塊クリエーターが人生の総決算を始めている。同世代(団塊老人)向けのなあなあのものだけではなく、若者をして慄然とさせるものも多数生まれてくるだろう。10代、20代の人もぜひ。

2月14日「チョコレートばんざい」

・「甘いものは太る」とか「甘いものは虫歯になる」というのは歪んだ禁欲主義が生んだ嘘だ。チョコよりごはんの方が太るって。甘いものより酸っぱいものの方が歯に悪いって。

・子供には、普段甘いものは与えない。言うことを聞かせたい時にだけ「ごほうび」として使うためだ。と、いう親がよくいるでしょう。すごく小さい頃ならそれはいいと思うんだけど「なぜ甘いもの食べちゃいけないの」という問いを発するくらいの歳になった時、「太るから」とか「虫歯になるから」なんて非科学的な言い訳でごまかしてはいけないと思う。「餌付け」ではなく信頼関係をもって教育するべきなのだ。

・「甘いもの逆差別」がどこから始まったのか調べてみると、どうやら敗戦直後の日本がそういうふうにして飼い慣らされたことが発端のようである。だとしたら民族の根源に関わる問題である。かつてチョコレートのためにプライドを捨て土下座した世代にだけは偉そうにしてほしくないと思う。

・ところでチクロの有害性は結局実証されなかったということをご存知か。チクロ使用禁止は、焼け野原から立ち上がってきた日本の新興ジュース会社を叩きつぶすための、アメリカのあの清涼飲料水メーカーの陰謀だったという説もある。

・今年最大のヒットは手作りの虫チョコでした。いや不二家じゃなくて。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。