第305回

3月28日「マジック仕立ての映画」

・話題の六本木「東京ミッドタウン」(=写真)に移転したGAGA社の新試写室にて『プレステージ』試写。二人の天才マジシャンがライバル意識高じてやがてお互いに憎しみ合うようになる。マジシャンならではのアイデアを駆使してのだましあい、ひっかけあいが面白い。

・19世紀末のロンドンが舞台で、娯楽として映画が出現する以前のショウビズ界をとてもリアルに描写する。伝説的科学者ニコラ・テスラ(デヴィッド・ボウイ)まで登場して驚愕させられる。

・伏線が凝っていて、何度も観たくなる。シナリオ構成そのものに凝った仕掛けがあるのだ。『メメント』のクリストファー・ノーラン監督が、映画作品自体を手品の仕掛けとして作っている。

・かなり冒頭で、瞬間移動マジックの方法として「そっくりな人を二人用意する」という種明かしがある。脱力しそうになるが、これはやろうとすると難しく、やれたとしたらずいぶんな大仕掛けも可能になる方法である。そういえば(前に書いたけど)昔TV番組の企画で「渡辺浩弐のそっくりさん」を募集したことがあった。応募者のうち数名にわたりをつけることができ、おかげでその後の人生に非常に役立っている。

3月29日「コピー機がペーパレス化を促進する」

・年度末なのでコピー機を買ったら、なかなか面白い進化を遂げていることに気付いた。コピー機がプリンターやファックスあるいはスキャナーの役割を飲み込んで久しいが、今は端末としての機能を急速に向上させている。ネットワークと繋がることによって、オフィス環境のペーパレス化をむしろ促進しているのである。液晶画面にはウェッブ画面をそのまま開けるし、紙に書いたものをスキャンしてそのままメールを発信したりもできるから、パソコン使わない人の方が重宝するかもしれない。

・コピーしたものを即座にPDFファイルにしてパソコンに自動送信しておく機能は、長く使っているうちに本領を発揮していくものだと思う。デスク脇にあれば、自分が目を通した資料や本を、ついでに全ページスキャンするのはそれほど手間なことではないだろう。それは自動的に検索可能なデータベースになる。ある意味、脳内の知識をバックアップするみたいな考え方である。

3月31日「アジア人としての視点で」

・ジュンク堂池袋店はカフェスペースを活用して出版人によるトークショウを行なっている。今日は「講談社BOX」太田編集長と、台湾でマンガやライトノベル系の出版を行っている全力出版有限公司の林依悧氏(りん・いり)社長の対談。林社長はうら若き女性で、というか見た目は美少女であり、太田氏のことをドラミちゃんの声で「おにいたま」と呼ぶ。

・マンガやラノベについて、アジア全域での、国境を取り外しての戦略について。さらにはアジアから世界への展開について。台湾のマンガ事情についての話も興味深かった。ビジネスが産業として成立した時期に技術力と制作効率は上がったが、優秀なオリジナル作品がほとんど生み出されなかった。そのせいで業界がとても脆弱になってしまった、という。

・経済効率を考えると、オリジナルを創るよりも日本から輸入した方が安上がりだ。また作家性のある人に描かせるよりも、アニメーターを大量動員して日本のマンガをお手本にして描かせた方が早いわけである。

個々の作家が密室にこもって行なう創作……借り物ではないオリジナル作品を仕上げていく努力は、ビジネスモデルの中に組み込みにくいのである。

・マンガも、アニメも、産業にしていく努力はもちろん重要だが、業界としての「夢」をしっかり掲げ続けることの方がもっと大切なのだろう。若いクリエーター予備軍の情熱をいかに刺激し続けるか。勘違いの支援策がかえって業界を萎縮させてしまった例なども出てきて、非常に興味深かった。

・まだリンさんの日本語の上手さに驚いた。日本のマンガとアニメで覚えたと言うのだが冗談だろう。こういう人達が既に世界を舞台に活躍し始めているわけである。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。