渡辺浩弐の日々是コージ中
第346回
1月15日「リプレイ映画」
・『NEXT』試写。P.K.ディック原作のSF映画は、小説のアイデアの一部だけを使って全く新しい物語に仕上げてしまうパターンが多い。なら別に原作料払わずにオリジナル作品としてやればいいじゃないかとも思うが、そこはきちんとリスペクトを表しておくということか、それともディック・ブランドがメジャー感を保証してくれるということか。
・これも原作は『ゴールデン・マン』ということになっているけれど、設定もストーリーも別物だ。使っているのは「もし自分の2分後のことを予知できる男がいたとしたら」という仮定と、ディック作品に多く見受けられる「枝分かれしていく未来を自在に選んでいく」感覚である。
・これが、映像の試みとしてなかなか面白いのだ。主人公の男(ニコラス・ケイジ)のイメージには、常に直後の自分が見えるわけだ。行動を変えると、その体験も代わる。選択肢をいろいろと変えて試行錯誤しながら先に進んでいく様子が、時間が行きつ戻りつ時には体が分裂したりする映像によって巧みに表現される。コメディシーンでも(女の子への話しかけ方をいろいろと試したり)アクションシーンでも(弾丸に当たらなくなるまで何度でも体を動かしてみたり)、これがとても新しい効果を生んでいる。
・高度な実写アドベンチャーゲームのリプレイを編集して映画にしたものとみることもできるだろう。この成果を、次はゲームが回収していくことになるのだろう。
1月21日「文学の可能性」
・ニューヨーク取材帰りの編集者・柴山さんから、向こうのブックカフェ事情をいろいろと聞く。知りたかったのは、そういうところで盛んに行われている読書会の文化が、日本ではなぜ一般化しないのかということだった。欧米では新刊が出たら作者自身による朗読会が行われることが珍しくないけれども、日本ではほとんどないよね。類似のものが行われるとしたら、かなり気合いを入れて演出するものにならざるをえない。
・日本にも良いブックカフェは増えているけれど、作家や本好きの人達のそういうコミュニケーションやイベントの場としては機能していない。トライリンガルの柴山さんによると、文学の楽しみ方、というか、文字認識のあり方自体に違いが根ざしているようでもある。うまく日本式に成立させる方法はないかな。
1月25日「ゲーム脳でありスイーツ脳である」
・相変わらずチョコが主食。誇張表現ではなく、ほとんど食事というものをしなくなった。もう酒も飲まない。それでますます感覚が鋭敏になってきて、チョコがほとんどドラッグのように効くようになってきた。
・さてこの時期、日本はスイーツ天国となる。中でも伊勢丹新宿本店では今とんでもなく豪華なイベントが行われている。「サロン・デュ・ショコラ」……13カ国、約55ブランドが出展するチョコレートの祭典。各国から有名ショコラ職人が来日、現場に勢揃いしている。会場は連日コミケ並みの賑わいで、ひとかけら1000円もするチョコにものすごい行列ができている。実に豊かな国だなあと思う。
・以前ここで書いたキャラメリエ&ショコラティエのアンリ・ルルー氏@フランス・ブルターニュも来場していて、実演+試食会を覗くことができた(=写真)。素材に寒天やソバの実を使うなど、発想の自由さにまた驚かされた。
・ショコラの奥深さを気軽に知りたいという方には、3個選んでコーヒーや紅茶と愉しめるショコラバーもある。会期は28日まで。