第478回

9月14日「そもそも立体的だった」

・雨宮慶太監督の『牙狼』劇場版・試写。フルデジタル3D(立体視)映画だ。雨宮監督ならではの表現が格段にパワーアップしている。監督のイメージはとても立体的だったということを随所にて、改めて知る。例えばあの墨文字風タイポグラフィーも3D映像では新しい意味を表出する。それぞれの部首が画面じゅうを踊り、前後の位置関係を保ったまま組合わさるのである。

・もちろん瞠目すべきは激しい格闘アクションだが、人間の挙動だけでなく、それに伴って創り出される光……その軌跡や反射までもが、しっかり3Dの「物体」として表現される。鏡の中に魔の世界がある、という設定で、特に光について、新しい3Dの解釈が成されているのだ。現実ではありえない、けれども現実的な映像。

・ラスト20分間、隅から隅まで雨宮センスで構築された魔鏡空間での戦いは圧巻。作り込まれた3D世界は、映像のテイストとしては最先端のハリウッド3D-CGゲームに近いものになるわけだが、その中で生身の人間をしっかりと見せる、魅せるテクニックは、世界に類をみない、雨宮監督ならではのものだ。

9月16日「TGS2010」

・東京ゲームショウ。今年は「枯れた技術の水平思考」的なフィーチャーが多い。

・家庭用のモーションセンサー、つまりこれまでWiiが独占していた体感操作システムにPS3、360がほぼ同時の参入(「PSムーブ」/10/21発売・「キネクト」11/20発売)、ともに大々的にショウイング。また両ハードともに、3D立体視システム対応タイトルについても注力している。モーションセンサー+立体視ゲームの没入感は想像以上だ。いずれもニューハードのインパクトがあるが、これまでのハードこれまでのCPUを使っているわけで、制作者にとって、技術的負担はかなり低い。機動力だけではなくアイデアが勝負となるインフラが提示されたということは不景気の、怪我の功名だ。

・『モンハン3rd』(カプコン)。土日は行列記録を塗り替えるかもしれないが、うまくさばいて、できるだけ多くの人に体験させてほしい。画面は一見してあまり変化はないようだが、操作性はかなり向上している。どうもカメラ挙動のAIが進化しているようだ。

・あるいは『ドリームクラブZERO』(D3P)では乳揺れ挙動の滑らかさが劇的に進化している。現行ハード上でまだまだゲームは進化するわけである。

・『MGSライジング』(コナミ)。今回の技術的テーマは「斬奪」というキーワードで的確に表現されている。刀でざくっと切ったその瞬間、その断面が自動生成される。その成果はただすごい映像が表出されることだけではない。傷の角度、形、深さに応じてダメージの形が変わる、とか、その切り口から何か重要なアイテムを獲得する、とか、新しいゲームのアイデアがこの技術からはたくさん噴き出してくるのだ。トレーラーの中では、敵モンスター(ロポット?)の胴体を切り裂いて、脊髄をほじくり出すシーンがあった。ハードなSFの設定の上で作られているため、そういうシーンにもグロさはなく、むしろエレガントなのである。

・個人的にぴんときた1本をあげるなら、水口哲也さんの新作『チャイルドオブエデン』(UBI)。キネクトに対応し、音楽と映像の3D世界にダイブして、その世界の中を泳ぐような動きで操作する(写真は水口さんによるプレイシーン)。気持ちよさそう!

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2010.09.18 |  第471回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。