日本の携帯は安いが繋がりにくくなる!? 「ケータイ料金値下げ会議」がもたらす“最悪のシナリオ”
安倍首相の鶴の一声を受けて招集された有識者会議は、通信業界を混乱に陥れかねない“地雷”だらけだった! 高市総務大臣は18日、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの社長に料金引き下げを求める政府方針を手渡し、低価格の料金プラン導入や販売奨励金の適正化を求めるとともに、MVNOの普及促進策を打ち出した。この総務省が推し進めようとしている、間違いだらけの改革がもたらす最悪のシナリオとは?
<最悪のシナリオ1>
▼月額割引の廃止でショボい端末中心に
「一番ありそうなのは、月額割引という形式の販売奨励金がキャップ制になる(上限を設ける)か、完全になくなるか。後者が採用された場合、来年からはiPhoneを手に入れるのに、否が応でも十数万円払わなければならなくなります。現実的には、いま“格安スマホ”として出回っているような5万円クラスの端末が主流になるでしょうね」(モバイル評論家・法林岳之氏。以下同)
格安スマホでもスぺックは十分……というユーザーも多いが?
「スペックといえば、カメラやディスプレイなどをイメージする人が多いのですが、近年もっとも進化してきたのは周波数。さまざまな帯域の周波数に対応して“繋がりやすさ”を実現してきた日本仕様の端末が、これからもどんどん出せるかというと疑問ですね。販売奨励金の廃止は、結果的に、これまで進化してきたスマホ文化を止めてしまうことにもなりかねません」
<最悪のシナリオ2>
▼安いが“繋がらない”ネットワークに
日本の携帯料金は高いか安いかという議論があるが、世界の中で比べれば“中くらい”。
「ですが、“繋がりやすさ”で言えば、日本のネットワークのクオリティは圧倒的です。同じ先進国でも、ドイツではフランクフルトからケルンまで、鉄道で移動するときに途中で接続が切れたり、2G回線に切り替わってしまったりしますが、日本なら東京から大阪までの新幹線の中で、なんの問題もなくネットに繋がっていられる」
このクオリティを担保していたのは、ユーザーが支払ってきた利用料金にほかならない。
「携帯電話は、日本では数少ない“日本全土を対象にしたインフラ産業”。電気、水道、ガスや交通は地域ごとに分かれているけど、携帯電話は違う。それゆえにキャリアは毎年、巨額の設備投資を行わなくてはなりません。諸外国のように“プリペイド”主流ではなく“ポストペイド”が主流だったからこそ、高品質のネットワークを維持できていたという背景もある。そんななかで利用料金の引き下げが行われた場合、これまでのような“繋がりやすさ”が求められなくなる可能性は大いにあります」
<最悪のシナリオ3>
▼MVNOが潰れてしまう!
そもそも「携帯料金の値段を下げろ」という話が出てきたとき「格安SIMがあるじゃないか」という話にはならなかったのか?
「発端となった経済財政諮問会議では、MVNOの話は1ミリも出てきていません。有識者会議の段階でようやく指摘する人が出てきた。MVNOにとって、今回の有識者会議は大きな逆風。3大キャリアが『月額通話し放題1000円+データ通信も1GB』みたいなサービスを出せば、誰だってそっちに行きますからね。せっかくMVNOが盛り上がり始めているところへ盛大に水を差した形です」
ユーザーにしてみれば、安くて使い勝手がよければ、3大キャリアでもMVNOでもどちらでもいいのだが……。
「そう言って、MVNOが全部潰れたあとに、3大キャリアがまた値上げしてきたらどうしますか? それが、“寡占状態”の弊害。結局、携帯料金を使いやすいものに変えたいのであれば、MVNOにとって仕事をしやすい環境をつくるのが一番なんです。もっとMVNOが市場に認知されるよう仕向けていったり、MVNOが潰れたときに備えて端末の保障やサポートを行う体制を整えたり。そういう、業界を“盛り上げる”ためのアイデアを出さず、ただ“締める”方向に持っていこうとしているのが、今回の有識者会議の最大の問題点と言えます」
高市総務大臣におかれては、自ら率先してMVNOのユーザーとなって業界を盛り上げる……くらいのパフォーマンスを行ってもよいのでは? 今後のなりゆきを注視したい。
取材・文/SPA!編集部
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