恋人に何度も首を絞められた男が知った真実の愛――爪切男のタクシー×ハンター【第十二話】
知恵を絞った私は、首を絞められた回数に応じて自分にご褒美をあげることにした。首を十回絞められたら、好きな漫画を一冊買ってよい。三十回絞められたら好きなCDを一枚買ってよい。五十回絞められたら風俗に一回行ってよい。そのような特典を決めて、日々の首絞めを楽しむことにした。メモ帳に正の字を書くのも味気なかったので、百円ショップでスタンプカードの台紙と可愛いスタンプを購入し、首を絞められるたびにイチゴのスタンプを台紙に押していくことにした。お店などでよくあるスタンプ三倍デーは毎週水曜日にした。自分の頑張りを目に見える形にすると、不思議とやる気が出るもので、徐々に溜まっていくイチゴのスタンプを見ながら、私はニコニコしたものだ。特典の一歩手前で数日足踏みした時は「どうして俺の首を絞めないんだ!」と彼女に詰め寄りたい気持ちを抑えるのが大変だった。
この話を聞いたおばちゃん運転手は怒りに打ち震えていた。そのせいか、ますますスタローンによく似た顔になっている。
「失礼な言い方して申し訳ないんですが、お客さんはひどい人ですよね」
「え?」
「さぞかし、ご自分だけは楽しんでるのかもしれませんけど……」
「……」
「あなたは自分だけ頑張ってるおつもりなんでしょうけどね、あなたの彼女さんだって頑張ってるんですよ」
「……」
「それなのに、自分にだけご褒美をあげるなんてね!」
「……全然気づきませんでした」
「ご褒美は二人で楽しめることに変えたらどうですか? 料理が美味しいお店に行くとか、旅行に行くとかね」
「……あぁ……すごく良いですね」
「……私もね、お客さんに首を絞められた時はそりゃ落ち込みましたよ」
「……はい」
「でもね、首を絞められたことのない人より、首を絞められたことのある人の方が他人に優しくできる。私はそう思って毎日の仕事を頑張ってますよ」
「正直、言葉の意味はよくわからないんですが、なんだか良いですね」
「首を絞められたことのある者同士、明日からも頑張りましょう!」
「ありがとうございます……」
『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー! |
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