恋人に何度も首を絞められた男が知った真実の愛――爪切男のタクシー×ハンター【第十二話】
「気づいたら首絞めちゃってた……ごめんなさい」
「こっちこそ、殴ってごめんね」
「全然いい……でもこんなんじゃ断薬できないね。私、また薬飲むね」
「……」
「本当にごめんなさい……」
「いいよ、断薬続けようよ」
「……え? でも……また迷惑かけちゃうかもだよ……」
「そのたびに殴らせてもらうけど、それでもいいなら一緒に頑張ろう」
「……いいの? ありがとう!!」
「とりあえず、包丁とかハサミとかの刃物は捨てようか、危ないし」
「……そうだね」
「包丁って何曜日に捨てればいいんだっけ?」
その日から、愛する彼女が、たまに首を絞めて起こしてくれる生活が始まった。理由はわからないが、断薬からくる禁断症状で、私の首を絞めたくて仕方ない衝動に駆られるのだそうだ。
出会った時に唾を売っていた女が、自分の病気と正面から闘おうとしているのだ。愛する女の闘いを応援してあげるのが男の務めではないか。首絞めぐらいは耐えてみせる。強くそう思っていたのだが、月水金の週三ペースで首を絞められる生活はなかなかヘビーなもので、私の精神もやられそうになった。このままではいけない。発想を逆転させ、首を絞められることに、何か楽しみを見出さねばいけない。
|
『死にたい夜にかぎって』 もの悲しくもユーモア溢れる文体で実体験を綴る“野良の偉才”、己の辱を晒してついにデビュー! ![]() |
この連載の前回記事
【関連キーワードから記事を探す】
ここから先は、運命です【荻窪駅 ・邪宗門(喫茶店)】/カツセマサヒコ
立ち飲みおでん屋の恋【王子駅 ・平澤かまぼこ】/カツセマサヒコ
笑い声は、デバババ【中野駅・酒道場】/カツセマサヒコ
窪塚洋介を目指した先で【池袋駅・友誼食府】/カツセマサヒコ
冒険はしずかに始まる【押上駅 ・ 東京スカイツリー】/カツセマサヒコ
「風呂ナシ部屋で、ガラケー生活」タブレット純(49歳)があえて“不便な生活”を実践するワケ
「お笑いの舞台で救われた」“ムード歌謡の貴公子”タブレット純が語る、ダメ人間だった時代
『バカはサイレンで泣く』イベントで「貴乃花」をお題に大喜利大会。大賞は狂気を感じる大作に
女性の前を歩いてリードする? それとも後ろを歩いて見守る派?――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第7話>
サブカルおじさんの罪と罰――鈴木涼美の「おじさんメモリアル」
タクシーに乗ると“前の客が置いていったビニール袋”が…「その場で降りました」予想外の中身に大パニック
大雨で密閉されたタクシーは“耐えられない悪臭”だった…「次の被害者が出ないように」乗客がとった行動
「すぐそこやないか。歩け」と暴言を吐かれた…「京都の個人タクシーは最悪」と主張する男性が受けた非道の数々
後部座席でイチャイチャしていたカップルが…タクシー運転手が“気まずかった”客5選
急増するJPNタクシー、現役ドライバーが明かす不満点「車内空間は広いけど」
死にたい夜にかぎって空にはたくさんの星が輝いている――爪切男の『死にたい夜にかぎって』
人生の岐路に立たされたときこそ“テキトーな占い師”を頼りたい――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第8話>
女性の前を歩いてリードする? それとも後ろを歩いて見守る派?――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第7話>
コインランドリーでゴムをばらまく“コンドームおじさん”を追え!――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第6話>
借金取りを本気で殺そうとしたプロレス少年の愛と絶望――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第5話>
死にたい夜にかぎって空にはたくさんの星が輝いている――爪切男の『死にたい夜にかぎって』
人生の岐路に立たされたときこそ“テキトーな占い師”を頼りたい――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第8話>
女性の前を歩いてリードする? それとも後ろを歩いて見守る派?――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第7話>
コインランドリーでゴムをばらまく“コンドームおじさん”を追え!――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第6話>
借金取りを本気で殺そうとしたプロレス少年の愛と絶望――爪切男の『死にたい夜にかぎって』<第5話>
この記者は、他にもこんな記事を書いています