「風俗は男性にとっての避難所」鳥飼茜が考える男女間のギャップとは
その恐怖はどこにいきつくのか。
「怖がっていたら続かないし、そのうち自己防衛が働いて『こんなことはなんでもない』って、私なら思うようになる。そうやって“なんでもない”ことにした苦しさは消えはせずに、形を変えて別の場所に吐き出されたり、本人の中に溜まっていく気がします。だから、どのくらい自分の自由な意志でやりたいと決められることなのか、どうしても疑問があるんですよね。そうやって成り立っている以上、風俗という職業を全肯定はできないなというのが、私のいまの考えです」
芝内は男性読者に向けて、女性が風俗に感じるそうした拒否感や嫌悪感を代弁するキャラということなのだろうか。
「女だから感じる拒否感や嫌悪感はもちろん女にしかわからん。でもそれってつきつめて考えたら、『女だからとか男だからって関係なくないか?』と思った。そうしてる人を好きか嫌いかなんて考えない。自分だったらつらい。自分の体だったら楽しいか苦しいかで考えれば、明らかじゃないですかね」
鳥飼氏は昨年、『週刊SPA!』の「エッジな人々」でロングインタビューを受けている。その際、女性が本音を口にしただけで男性から「怖い」と言われてしまう風潮の裏には、男性もまた「男の役割」を求められることを恐れている状況があるのではないか、と指摘。「女って怖いな」「女って面倒だな」と感じたら、女性全般がさらされている社会や状況のせいかも、と考えてみることで、お互い想像力を働かせたり、教えあったりできたらいいのではないか、と提言した。
そんな経緯もあって決まった今回の連載だが、周囲の人からは「なぜ男性向けの雑誌である『週刊SPA!』で連載を始めたの?」と聞かれることもあるんだとか。
「『先生の白い嘘』のように男女の性差を描いている漫画家が、グラビアとか風俗情報とかてんこもりの男性視点で作られているSPA!みたいな雑誌で描くのは『相容れないのでは?』と思っている人もいるのかな。でも、自分の意にそぐわないことが書かれている媒体だから描きたくない……とかは、私はあまり思わないんです」
それは同じ職場内であっても同様だという。
「以前、仕事場にアシスタントで来てくれていた男の子に、『自分はエロを題材にした漫画や女の人をおとしめるような漫画を描いているので、鳥飼さんが気に入らなくて怒るんじゃないかと怖かった』と言われたことがあって。でも、自分の興味・関心をストレートにさらけ出せることが表現の醍醐味だから、私の主義・主張はさておき、作品の中では何を描いてもいいと思うんですよ。雑誌についても、おおよそは同じ。自分たちの決めたモラルやルールに抵触しなければ存分にやること自体に文句はないし、誌面を見て嫌だったら嫌だと言えばいいだけなので。同時に、嫌だという意見を常に受けて立つ仕事でもあると思っています」
【鳥飼茜】
’81年、大阪府生まれ。’04年デビュー。主な作品に『おんなのいえ』、『先生の白い嘘』(ともに講談社)、『地獄のガールフレンド』(祥伝社)ほか。’16年10月より『週刊SPA!』で「ロマンス暴風域」を連載中
<取材・文/福田フクスケ 撮影/スギゾー。>
作品の中では何を描いてもいいと思う
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『ロマンス暴風域』 “恋愛弱者のロマンス"ここに開幕! |
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