大喜利だけが生きていることを実感できる場所だった――“伝説のハガキ職人”ツチヤタカユキが戦い続けた“カイブツ”の正体
NHKの『着信御礼!ケータイ大喜利』に高校時代のすべてを捧げ、21歳で投稿者の最高位である「レジェンド」を獲得。その後も、雑誌やラジオの投稿コーナーで常連のハガキ職人となり、その圧倒的な量と質からたちまち界隈の有名人になった男、ツチヤタカユキ。ついには、とある芸人に見初められ、彼らの漫才作家として単独ライブのネタに携わるまでに登り詰めた、まさに“伝説のハガキ職人”だ。
『笑いのカイブツ』(文藝春秋)がこのほど出版された。彼をそこまで駆り立てた“カイブツ”とはなんだったのか。本人へのインタビューから迫ってみた。
思えば彼は、もともと幼い頃から「人間関係不得意」な人間だった。
ツチヤ:大阪で生まれ育ったこともあって、小さい頃からお笑い番組を見るのが唯一の楽しみで。でも、学校では一言もしゃべらないまま家に帰るような暗い人間だったので、クラスで面白いことを言ってウケた、みたいな経験は一切ないですね。お笑い好きなことも隠していたし、どっちかと言うと変人やん、と思われて笑われているタイプでした。
そんな彼が“投稿”に目覚めるのは、15歳の頃である。
ツチヤ:自分で考えたネタを投稿したのは『ケータイ大喜利』が初めて。大好きで憧れていた千原ジュニアさん、今田耕司さん、板尾創路さんが司会・審査をしていたという理由がでかかったですね。一時期は漫画家になりたくてストーリーとかを考えていたんですけど、家が貧乏だったんで道具を買うお金がなくて。音楽なら楽器や機材、画家なら筆や絵の具が必要だけど、お笑いはタダでできましたから。
1回の生放送で30万件もの投稿が寄せられ、採用確率はわずか1万分の1。そこで彼は、番組で読み上げられたネタをすべてノートに書き写し、ボケを13個のパターンに独自で分類した。高校卒業後はフリーターをしながら、1日に100個ボケを出す練習をし、その数はやがて500個、そして1000個へとエスカレートしていく。
ツチヤ:ただやみくもにやってもダレるだけだと思って。中学時代にゲーム廃人だった時期があるので、経験値を集めたらレベルが上がっていくように、「何個ボケたらレベルなんぼ」みたいなんを設定したほうがモチベーションが上がったんですよ。20歳でバイトを辞めて、投稿だけに集中するようになってからの1年半で、最終的には1日2000個のボケ出しをするようになっていました。
その異常なストイックさで、5秒に1個のペースでボケを生み出せるまでになったツチヤ氏は、21歳で見事「レジェンド」の称号を得る。だが、それと引き換えに「大喜利をしている時にしか、生きているって感じがしなくなっていた」(『笑いのカイブツ』P.22より)という状態へと追い込まれていく。やがて、活動の場を雑誌やラジオの投稿コーナーへと移した彼は、さらに研ぎすまされた“大喜利廃人”へとなっていった。
ツチヤ:毎朝、イオンのフードコートでチラシの裏にボケ出しをしたら、帰りは図書館に寄って、純文学から詩集、戯曲、伝記や雑誌まで、あるものは何でも読んでました。ボケ出しするたびに、自分がからっぽになっていく感覚があったので、本を読んで吸収しないとボケが出せなくなるという恐怖があったんです。中でも、岡本太郎の本は常に持ち歩いて毎日読んでました。誰からも理解されない生き方を、彼だけは肯定してくれている気がして。
生活のすべてを投稿のために費やし、ハガキ職人を始めて半年で、ネット検索すれば名前が話題になっているほどの有名人になった。『週刊SPA!』の名物コーナー「バカはサイレンで泣く」(バカサイ)でも、もちろん常連投稿者だった。
⇒【写真】はコチラ https://nikkan-spa.jp/?attachment_id=1294201
ツチヤ:「バカサイ」は、傾向としてはベタ系とシュール系、発想センス系のちょうど真ん中ぐらいなんです。もう少しシュールに寄ると『週刊ファミ通』の「ファミ通町内会」で、そこに下ネタを足すと『オードリーのオールナイトニッポン』みたいな。ただ、当時は『ファミ通』に優先的に投稿してましたね。採用されるとガバスっていうポイントがもらえて、いろんな商品と交換できるんですよ。貧乏だったので、ガバスを貯めてゲーム機もらって、それを売って生活費にしてました。
しかし、お笑いにすべてを捧げた彼は、1日に2000個のボケを生み出せるようになった代わりに、自分を極限まで追いつめて周囲から孤立し、生活を破綻させていく。その壮絶な十数年を描いた私小説
『ケータイ大喜利』に費やした青春
『笑いのカイブツ』 “人間関係不得意”で知られる伝説のハガキ職人・ツチヤタカユキ。「オールナイトニッポン」「伊集院光 深夜の馬鹿力」「バカサイ」「週刊少年ジャンプ」など数々の雑誌やラジオで、圧倒的な採用回数を誇るようになるが――。伝説のハガキ職人による青春私小説。 |
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