更新日:2017年11月15日 18:02
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「日本はもっと賢く強くあってほしい」台湾の元外交官による問題提起とは?【評論家・江崎道朗】

ソ連の戦争泥棒

 張氏は更に次のように主張する。  東條政権は、最も拙い対応策を採用してアメリカに宣戦し、敗戦となった。日本は、多くの土地を失い、日清・日露戦争で得た土地及び数百万の軍人と民間人の死傷者を出し、無数の財産を失った。日本が負けたとき、台湾人はみな泣き、悔しがった。  一方、中国国民党政権は戦勝国になったが、その損害は日本より惨めだった。日本の敗戦後、中国大陸で国共内戦、つまり蒋介石率いる中国国民党と、毛沢東率いる中国共産党が戦争を再開し、国民党は敗北、台湾へ逃げた。この国民党によって支配された台湾では2・28事件において多くの台湾人が殺害され、その後も為政者による白色テロ、独裁政治によって台湾の人々は迫害され続けた。  アメリカはもともと、日中戦争とは関係なかったが、ルーズヴェルトの対日圧迫外交と東條政権の判断のせいで日米戦争となり、多くの軍民が犠牲となった。確かにアメリカは日米戦争に勝ったが、一文の賠償もなく、かえって日本を守る責任を負い、今に至ってもその責任を負っている。  結局、ソ連だけが戦争泥棒で得をし、日露戦争で失った利益を獲得しただけでなく、千島列島、北方領土まで奪った。中国共産党も、大きな利益を得た。  なんでこんなに意外な結果になったのか。それは、アメリカのルーズヴェルト政権の対日圧迫外交と、その挑発に乗った東條政権の判断ミスが原因ではないのか。――張氏は、こう指摘しているのだ。  歴史的に見れば、東條政権は当時、日米戦争回避に向けて必死に努力をしている。そのことは張氏も理解しているようだが、それでもなおソ連や中国共産党に利するような結果を避けるために別の道があったのではないかと指摘しているのだ。  張氏は、日本を非難しているのではない。日本の選択は、アジア太平洋の将来を大きく左右することになる。日本が賢くないと、アジア太平洋諸国が苦しむことになるのだから、日本はもっとアメリカや中国、ロシアについて研究し、ロシアや中国共産党に利するような拙い外交をしないでほしいと願っているのだ。  こうした期待を抱いて日本の外交を注視している国が、アジア太平洋には台湾を始めとして多数存在していることを忘れないでおきたい。 【江崎道朗】 1962年、東京都生まれ。評論家。九州大学文学部哲学科を卒業後、月刊誌編集長、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、外交・安全保障の政策提案に取り組む。著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)など
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

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