更新日:2022年10月05日 23:41
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防衛費「先進国並みGDP比2%10兆円」でも足りないくらい【評論家・江崎道朗】

中国の防衛費は日本の10倍か

 防衛予算の不足については自民党もよく分かっていて、野党時代の平成22年6月14日に公表した「提言・新防衛計画の大綱について」のなかでこう指摘していた。 《部隊の「実員」不足が常態化し、一人二役・三役のやりくりも限界にきて、人材育成にも支障がきている》  それから7年、自衛隊はミサイル危機対応や尖閣対応などで飛躍的に仕事が増えてきているのに、応募難と予算不足で実員がさほど増えていないため、内部崩壊寸前に追い込まれているという。  一方、防衛省のホームページに掲載された「中国の国防費」によれば、2017年度の国防予算(公表額)は約18兆円だ。  しかも「実際の国防費は公表額の約2~3倍と見積もられる」との台湾国防部「国防報告書」(2015年10月)を踏まえれば、実際額は36兆円から54兆円と想定される。対するわが国は、約5兆円に過ぎない。  来年度の防衛予算が5兆2500億円と過去最高を記録したとして批判する報道ばかりが溢れているが、お隣の中国の防衛費になぜ触れないのか。隠蔽報道と言われても仕方があるまい。それでは、中国は、日本の10倍近くの防衛費を使って何をしようとしているのか。アメリカは、台湾や尖閣を取りに来ている、と見ている。 《米国防総省は6日、中国の軍事情勢に関する年次報告書を発表した。台湾への侵攻や南シナ海での島しょ防衛のため、中国人民解放軍が、水陸両用部隊による上陸作戦の遂行能力を高めようとしていると指摘。中でも海軍陸戦隊(海兵隊)は、尖閣諸島(沖縄県石垣市)への急襲作戦も念頭に部隊の育成を進めているとの見解を示した。》(6月7日付産経新聞)  聞けば、中国は尖閣を不法占拠するための海上民兵部隊を創設しており、その規模は6000人を超えるという。こうした動きに対抗してアメリカのトランプ政権でさえ防衛費を62兆円から68兆円に増やそうとしている。対する自衛隊は防衛予算を数千億円程度増やしただけにとどまった。そのためミサイル迎撃の柱であるPAC3も、肝心の迎撃ミサイルの予備がほとんどなく、同時に数発撃たれたら、対応できないとの噂も聞く。
江崎道朗

江崎道朗(撮影/山川修一)

 こうした状況を理解している自民党は、防衛費を現行のGDP比1%から、先進国標準のGDP比2%、つまり10兆円を目指そうと提案している。「国家安全保障戦略」で示されたミサイル防衛、島嶼防衛、サイバー戦といった課題を本当に実現しようと思うならば、10兆円でも足りないぐらいだ。  予算は国家の意思であり、防衛費増額という形の財政出動は、景気回復にも資することになる。世論の後押しが望まれる。 【江崎道朗】 1962年、東京都生まれ。評論家。九州大学文学部哲学科を卒業後、月刊誌編集長、団体職員、国会議員政策スタッフを務め、外交・安全保障の政策提案に取り組む。著書に『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』(PHP新書)、『アメリカ側から見た東京裁判史観の虚妄』(祥伝社)、『マスコミが報じないトランプ台頭の秘密』(青林堂)など
(えざき・みちお)1962年、東京都生まれ。九州大学文学部哲学科卒業後、石原慎太郎衆議院議員の政策担当秘書など、複数の国会議員政策スタッフを務め、安全保障やインテリジェンス、近現代史研究に従事。主な著書に『知りたくないではすまされない』(KADOKAWA)、『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』『日本占領と「敗戦革命」の危機』『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』(いずれもPHP新書)、『日本外務省はソ連の対米工作を知っていた』『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』(いずれも扶桑社)ほか多数。公式サイト、ツイッター@ezakimichio

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 ’17年、トランプ米大統領は中国を競争相手とみなす「国家安全保障戦略」を策定し、中国に貿易戦争を仕掛けた。日本は「米中対立」の狭間にありながら、明確な戦略を持ち合わせていない。そもそも中国を「脅威」だと明言すらしていないのだ。

 日本の経済安全保障を確立するためには、国際情勢を正確に分析し、時代に即した戦略立案が喫緊の課題である。江崎氏の最新刊『インテリジェンスで読み解く 米中と経済安保』は、公刊情報を読み解くことで日本のあるべき「対中戦略」「経済安全保障」について独自の視座を提供している。江崎氏の正鵠を射た分析で、インテリジェンスに関する実践的な入門書として必読の一冊と言えよう。
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