一橋大大学院卒、30歳男たちの明と暗…現在無職、職業訓練校に通う日々
「若くて」「学歴・職歴があり」「体力もある」加藤さんがハローワークですすめられたのは“職業訓練校”に通うことだった。職業訓練校とは、職を探している人が次の仕事に就けるように資格をとったり、スキルを身につけることをサポートする場。それだけではない。ここに通えば、国から月10万円を支給してもらえる。アルバイトもせずお金をもらえるならラッキーとばかりに、調理科コースへ入学することにした。それが2017年8月の話。
加藤さん曰く「クラスメイトは“社会不適合者”ばかり」。お互いに仲良くなろうともせず、なぜここに通っているのか話し合うこともない。ただし、新しいクラスメイトは、全員の前で自己紹介をしなくてはならないという流れがある。だから、加藤さんが入学したあとに入ってきた人のことだけは、少し知っている。
そんな“社会不適合者”のなかには、こんな人物もいるそうだ。たとえば、幼少期からテニスの英才教育を受け、“神童”と呼ばれていたが、どうしてもプロの壁を越えられず、高校卒業と同時にテニスを辞めることになった。そのとき初めて、自分にはテニス以外になにもできないことに気付き、いまに至るという。
さておき、加藤さんは「社会不適合者の集まり」というが、遅刻する生徒は1人もいない。なぜなら、入学する際のガイダンスで「君は、税金で通っているのだから無遅刻・無欠席は当たり前。もし遅刻をしたら、一発で退学」と釘を刺されているからだ。
「学生時代はぜったい引きこもりだっただろ、サボりがちだっただろ、と思うメンツなのに、毎日ちゃんと来ているんだよね。異様に感じるくらい」
要するに、働くよりかは学校に通って10万円をもらうほうがラク。そんなところだろう。他人のことはさておき、将来はどうするつもりなのか。職業訓練校には3月まで通えるらしいが、それ以降はどうするつもりなのか……。
「成り行きで生きていく」
一連の話を聞くと、料理人になるスキルが身についたうえ、職歴もあるのに、そもそも一橋大学大学院を出ているのに、なんてもったいない生き方なんだ!と思ってしまうが、今はそれなりに楽しく過ごしているそうだ。本人がいいなら、それでいいのかもしれない。ちなみに、漫画はまだ完成していないらしい。
そんな彼に将来性など見えない。居酒屋に入ってから2時間が経った。無職の男性におごってもらうわけにもいかず、キッチリと割り勘で支払いを済ませた。「もう一軒行く?」と誘われたが、話の続きに興味はもてない。
断ったはずの合コンに「まだやってる?」とLINEで確認してみる。どうやら2次会があるらしい。わたしは、足早に加藤さんのもとをあとにした。 <取材・文/渋川アキ>
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