更新日:2023年03月12日 09:26
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ピエール瀧の“社会的抹殺”のされ方は異常だ/古谷経衡

ピエール瀧逮捕騒動で全体主義に陥る日本を見た

ピエール瀧

メディアは「いま思えば頻繁に鼻をかんでいたのは、コカイン常用による鼻粘膜の炎症だったのかもしれない」などと後解釈の発表を続けている。薬物所持で逮捕された勝新太郎や尾崎豊の時代にはこのような社会的抹殺はなかったが……(写真/時事通信社)

「高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない」とは、SF作家のアーサー・C・クラークの言である。ピエール瀧の逮捕騒動で私は、この有名な言を「高度に発達した道徳社会は北朝鮮と見分けがつかない」と表現したい。  瀧が薬物で逮捕されて以来、放送界の動きは素早いものであった。まず瀧がレギュラーを務めるTBSラジオ『たまむすび』は公式サイトから瀧を削除。静岡朝日テレビで瀧が司会を務める『しょんないTV』は即、番組自体の休止を決定。それどころか、『しょんないTV』の縁で瀧の似顔絵が打刻されたマンホールを使用していた静岡県藤枝市は、迅速にこのマンホールを市内から撤去した。  NHKは、大河ドラマ『いだてん』で瀧が重要な役で出演していることから、まずNHKオンデマンドで同番組の配信停止を決定した後、「過去に遡及して瀧の登場する場面を撮り直す」と決定して代役を立てるに至った。その他、内定していた役の降板、瀧の出演映画の構成変更、活動の主軸であった「電気グルーヴ」の音源配信停止など、芸能界は瀧の逮捕で機敏な反応を見せた。  はっきり言って異常である。本稿執筆時点で、瀧はコカイン使用(吸引)の容疑で逮捕されたが起訴されていない。日本の司法制度では裁判所で有罪が確定しない限り、容疑者は一貫して推定無罪として扱われるが、起訴すらされていない段階で瀧の社会的生命のすべては根こそぎはく奪された。
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いつから道徳、倫理が法よりも優先されるのか
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(ふるやつねひら)1982年生まれ。作家/評論家/令和政治社会問題研究所所長。日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。20代後半からネトウヨ陣営の気鋭の論客として執筆活動を展開したが、やがて保守論壇のムラ体質や年功序列に愛想を尽かし、現在は距離を置いている。『愛国商売』(小学館)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか』(晶文社)など、著書多数

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