更新日:2023年03月28日 08:57
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「大麻を拾った」と言い張る被告と検察官の探り合い<薬物裁判556日傍聴記>

発言に不明点が多いが、「嘘である」証明はならず

 過去の海外旅行時に、大麻がどういうものかを認識した。とはいえ、ここでも「吸った」とは言いません。続きを見ましょう。 検察官「先程、大麻を最近吸っているか吸っていないか? という先生(=弁護人)の質問に対して吸っていないと答えているんですけど、他方で、あなたが取り調べの中で、この日ね、捕まった当日むしゃくしゃしていて、自分で使おうと思いましたっていう供述調書……結構勾留期間の後ろのほうになって作成されている供述調書の中に、そういう内容が出てくるんですけど?」 被告人「はい。むしゃくしゃして吸おうと思っていました」 検察官「それは、この逮捕された日に、使おうと思っていたということですか?」 被告人「まあ、うーん、いつかとか、決めていたわけではないです。何かまあむしゃくしゃしていたんで、そういう時に吸おうと思っていました」 検察官「じゃあそうすると、いつかっていうのはおいておいて、仮にあなたが生活してむしゃくしゃした時に、吸おうと思って持っていたという意味ですかね?」 被告人「はい」 検察官「で、今回あなたの車の中から、ジョイントだったり……」 被告人「ジョイント???」 検察官「ああっ、まあ巻紙。だったり、出てきていると思うんですけど、それはあなたとしては、大麻を使うようなものではない。ということでいいんですかね?」 被告人「そうです。巻きたばこを吸うんで」 検察官「タバコを巻くために持っていた。そういうことですかね?」 被告人「そうです」  被告の発言には不透明な点が少なくありません――大麻は拾ったもの。なぜコカインが付着していたのか? むしゃくしゃした時に吸おうと思っていたというが、それがいつかはわからない。大麻がどういうものが知っているが吸ったことはない。あるいは答えたくない――。かといってまた、その不透明さが「(被告の発言が)嘘」であると証明することにもならないわけです。ということで、判決は以下です。  主文。  被告人を懲役6ヶ月に処する。この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予。  これまで紹介した法廷でも触れましたが、初犯での大麻の不法所持は「懲役6か月、執行猶予3年」が一般的な判決。今回の法廷も、この例に漏れなかったようです。    ***  斉藤さんによれば、被告の沈んだ表情が印象的な法廷だったという。だが、この法廷でのやり取りを見るに、その消沈の様子が演技とは言わないまでも、なんとなく傷口を最低限に抑えよう(現実の生活にできる限り早く戻ろう)という気概のようなものが感じられる。 「ジョイントだったり……」と検察官が使った大麻を指すスラングに対し、「ジョイント??」と応じた被告は、この時どんなことを思っていたのか。大麻を吸わない人間が、なぜその言葉を知っているのか。そのツッコミを用意していたであろう検察官は、肩透かしを食らったのではないか。 <取材・文/斉藤総一 構成/山田文大 イラスト/西舘亜矢子>
自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す
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※斉藤さんのnoteでは裁判傍聴記の全文を公開中(https://note.mu/so1saito/n/nd944c7134417
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