更新日:2023年05月24日 16:17
エンタメ

霜降り明星、EXIT、ミキ、ゆりやん…第7世代は「お笑い」の何を変えるのか?

世代の代表格に上り詰めた「霜降り明星」と「EXIT」

 そして、2018年末、ついに「霜降り明星」が「M-1」王者となる。「霜降り明星」は前年の「M-1」でも「決勝進出するのではないか?」と目されていたが、思いは叶わなかった。しかし、叶わなかったからこそ、「ハナコ」とともに平成最後の年に王者になり、「第7世代」というワードを世間に刻み、令和という新時代に向かった。この一連の巡り合わせがなければ、ここまでのムーブメントになっていなかった。これだけ強運を持ったコンビはいない。 「霜降り明星」の漫才は、1つのストーリーでありながら一箇所一箇所を切り取っても面白い。せいや君のボケがある意味「クイズ」になっており、粗品君のツッコみが「答え」であり、そこで笑いが生まれる形だ。だからいい意味で、途中から見ても楽しめる漫才でもある。粗品君の左手を差し出すツッコミもキャッチーでギャグ的要素も含まれ、真似をしたくなる。ここまでテレビ向きな漫才で、結果も残している漫才師を俺は知らない。彼らこそが「第7世代」のアイコンである。 「第7世代」という概念を「霜降り明星」が作り、それを完成させたのが「EXIT」である。俺が初めて彼らを観たのが2017年の「M-1グランプリ」3回戦だった。彼らの漫才を観て、一発で撃ち抜かれ確信した。「売れる、確実に売れる」。  あまり後輩に声をかけないのだが、帰りのエレベーターで一緒になったりんたろー。君に思わず声をかけた。「おもろかったわ。いろいろあったけど、よかったなー」。彼の苦労は伝え聞いていた。そこから這い上がり、最高の姿を見せてくれた彼を称賛したくなった。  その後、彼らは順調に階段を登っていった。チャラい服装に「パリピ口調」と呼ばれる若者言葉を駆使して漫才をする2人。ただそれだけならばキワモノで終わってしまうところだが、多種多様な技法を用いて、全世代にアプローチをかけている。  題材が特に全方位に向けられていて、わかりやすく丁寧に構成されている。「振り」の部分はプロから観て「振り過ぎではないか?」と思われるところも、あの出で立ちであの言葉を使うことを考慮してのことなのだろう。特に最近、披露していた「近代五種」ネタは大人にも響くネタであり、素晴らしい出来だったとユウキパイセンは思う。

絶対権威であった「テレビ」にも物怖じしない第7世代

 関西の放送局である読売テレビで放送されている「ytv漫才新人賞選考会」。この番組は年に3回行われ、各回の上位2組が2~3月に行われる「ytv漫才新人賞決定戦」に進出できる。俺がその審査員で参加したときのこと。番組終盤、決定戦進出が決まったコンビを舞台上で審査委員長のオール巨人師匠が発表し、総評を行う。  そこで、巨人師匠は選ばれた2組に優劣をつけるコメントをした。すると「劣」のコメントをされたコンビが、巨人師匠を睨みながら歩み寄るという「ボケ」をした。俺は思わず審査員席から立ち上がりそうになった。舞台上の巨人師匠は笑っている。一緒に審査員を務めていた1年先輩の「ザ・プラン9」お~い!久馬さんに、俺は小声で「俺らの世代ではできないですね」とつぶやいた。久馬さんも頷いていた。  彼らは体罰がなかった世代である。「このおっさんにどつかれるんちゃうか?」がない。だから何事に対しても物怖じしない。パソコンが一般家庭にも普及されるきっかけとなった「Windows95」が発売された頃に生まれ育った世代だ。デジタルの進化とともに成長した世代であり、身近にパソコンやスマホがあった。「YouTuber」と「芸能人」という別け隔ても我々の世代ほどない。両者とも「スマホの中にいる人」なのかもしれない。 「ダウンタウン」さんや「ウッチャンナンチャン」さんを代表格とする「第3世代」。彼らは「新しいお笑いの登場」としてメディアを席巻した。その後の芸人は全員、彼らのDNAを少なからず受け、「テレビ」を制することに全精力を注ぎ込んだ。しかし、「第7世代」は「テレビ」というかつての絶対権威に対しても物怖じすることはない。だからといってお笑いを疎かにしているというわけではなく、自分たちのキャパシティの中で最大限のお笑いを楽しく届けようとしている。我々の世代のように相方にキャパシティ以上のことを要求し叱責するようなことはない。あっ、それは俺だけか?  昨今、芸能人のYouTube進出が止まらない。一方、YouTuberもテレビでよく見かけるようになった。ついに偏見が消えて、「混ざり合う」時代に突入した。そんな時代の先頭を走る「第7世代」。新たな「お笑い芸人像」を構築してくれることに期待する。
1972年、大阪府生まれ。1992年、11期生としてNSC大阪校に入校。主な同期に「中川家」、ケンドーコバヤシ、たむらけんじ、陣内智則らがいる。NSC在学中にケンドーコバヤシと「松口VS小林」を結成。1995年に解散後、大上邦博と「ハリガネロック」を結成、「ABCお笑い新人グランプリ」など賞レースを席巻。その後も「第1回M-1グランプリ」準優勝、「第4回爆笑オンエアバトル チャンピオン大会」優勝などの実績を重ねるが、2014年にコンビを解散。著書『芸人迷子

芸人迷子

島田紳助、松本人志、千原ジュニア、中川家、ケンドーコバヤシ、ブラックマヨネーズ……笑いの傑物たちとの日々の中で出会った「面白さ」と「悲しさ」を綴った入魂の迷走録。

⇒試し読みも出来る! ユウキロック著『芸人迷子』特設サイト(http://www.fusosha.co.jp/special/geininmaigo/)
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