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借金500万円男。マンションの契約更新を断りホームレスになる

毅然とした態度で更新を拒否

 更新をするかどうかは、契約満了の約1ヶ月前までに伝えなければならない。ちょうど家賃の金の工面を考えている頃だ。そんな時期に更新料の話をされて冷静になれる人間がいるだろうか。 「お部屋の更新、今日明日中に決めないといけないんですよぉ!」 「僕には必要ありません。出て行きます」  悪の手先からの電話に、毅然とした態度で応じる。 「では電気やガスの解約を忘れないようにしてくださいねぇ!」  ちょっといいヤツだった。  さて、解約を決めたらやらなければならない仕事はたくさんある。日々の日雇い仕事と並行して電気、ガス、水道、インターネットなどの解約を進めなければならない。ちなみにガスだけは基本的に立ち合いが必要になるので、解約の手続きを早めにしておく必要がある。インターネットは解約時に違約金が発生するケースが多々あるので、住所変更と解約のどちらが損をしないのか計算した方がいい。  そうして家の諸々のしがらみを取り去った後に残るのが「転居」だ。住所がなくてはできないことがたくさんある。僕の場合は金貸業者との裁判の進捗が特別送達で届くので、かなり大事になってくる。後ろめたい人間ほど住所の果たす役割は大きい。木を隠すなら森の中、人を隠すなら家の中。  7万円を超えない家賃の家を探しまくり、4件の不動産会社に連絡をし、審査のお願いをする。我ながらこの辺りの手続きの手際がよい。気づいたら携帯も止まっていて実家に帰ってしまっているフリーターの仲間がたくさんいる中で、僕が東京でギリギリ生き残り続けている理由でもある。この街では「知らないフリをした方がいいもの」ほど、しっかり理解しておかなくてはならない。無知なフリと無知は決定的に違う。

部屋を借りられる身分ではない

 退去の一週間前、なんと全ての家の審査に落ちてしまった。どうやら家賃の滞納とカード会社への未払い、どちらも引っかかってしまったらしい。慌てて不動産の会社で働く友達に連絡をし、「なんとか探してくれ」と頼むも、 「お前は何か勘違いしているみたいだけど、そもそも部屋を借りる身分ではないのよ」  と返されてしまった。晴れてホームレスへの扉が開かれる。そうか、「身分ではない」か。  確かに虫がよすぎる話なのかもしれない。初期費用もまともに払えない人間が来て、家賃未払いの前科がある上に裁判を3件も掛け持ちしている。借金をして信用情報を真っ黒にして、それでも生活ができるのはあくまで自分自身の心持ちの問題であり、こうして普通の人が普通に暮らしていくような事をする時、僕にしか見えなかった大きな壁にぶち当たる。  そして金が無いのに気丈に振る舞っていた自分を騙し、僕自身が壁を見ないようにしていたのだ。
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ホームレスになり革命の1日目を……
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