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安定政権樹立の絶対条件は、総理大臣に忠誠を尽くす官房長官だ/倉山満

組閣から始まった菅義偉首相のしくじり

言論ストロングスタイル

9月29日、自民党総裁選で新総裁に選出された岸田文雄氏。新首相となるからには、人事を誤り、短期政権で終わることがないように祈るばかりだが…… 写真/時事通信社

 総理大臣の権力は、すなわち何をできるかは、どのようななり方をしたかによって決まる。そして人事。  事の発端は、菅義偉(この原稿を書いている時点では現)首相のしくじりから始まる。菅さんに対しては「だから言わんこっちゃない」が山のようにあるが、その最初が組閣だ。  組閣は二つの人選を間違えなければ何とかなる。自民党幹事長と官房長官だ。幹事長は総理大臣の仕事で忙しい総裁に代わり、党を預かる。官房長官は、番頭として政権を切り盛りする。  就任当初の菅首相は、ここで致命的な失敗をした。二階俊博幹事長は政権樹立の生みの親として外せなかったのは、百歩譲って認めよう。しかし、なぜ官房長官に加藤勝信の如き忠誠心と能力の双方が欠如した人物を据えたのか。加藤氏は「現住所竹下派、本籍地安倍派」と言われるほど、安倍晋三元首相に近い。菅内閣1年を通じて、足を引っ張り続けたのは、再三指摘してきた。

内閣改造を決断するも時すでに遅し、引きずりおろされた

 本欄では、田村憲久厚労大臣・西村康稔コロナ担当大臣とともに「三バカ」と名指しで批判、何度も「この三バカを罷免せよ」と訴え続けた。政権末期になって菅首相は内閣改造を決断したが時すでに遅し。支持率最悪の首相に「政権を強化したいので大臣になってくれ」と頼まれて引き受けるお人好しはいない。むしろ「お前がやめろ」と引きずりおろされた。  政治家、特に自民党の衆議院議員は、何よりも選挙で落選するのを恐れる。だから、派閥の領袖が何を言おうが、「選挙に勝てない総理総裁」の存在を許さない。「菅では勝てない」の声が燎原の火の如く広がり、時の総理大臣と雖も逆らえなかった。

絶対の守護神・枝野幸男がなくす自民党の危機感

 さて、後継の総理大臣はどうやって選ぶか。衆議院の首班指名選挙で決まる。しかし、衆議院の第一党は常に自民党だ。何回、選挙をやっても、必ず自民党が勝つから。だから自民党総裁が首班指名で選ばれる。よって、自民党総裁選の勝者が総理大臣になる。  では、その自民党総裁はどう選ぶか。382人の国会議員に加え党員(100万人の投票を382票で比例配分)で決める。合計764票。  ここでもし「マトモなリーダーを選ばねば、自民党は野党に転落してしまう」との危機感があれば、人気のある総裁が選ばれただろう。ただ不幸かな、自民党には絶対の守護神がいる。野党第一党だ。日本人なのに「選挙で立憲民主党を勝たせて枝野幸男を首相にしよう」などと本気で考えていたら、よほどのカルトだ。ならば、派閥の談合で決めればいい。
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間違っても特定の派閥の「在庫一掃」的人物を並べてはならない
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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