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天皇や皇族は奴隷ではない。権限がないことと自由や人権がないことは違う/倉山満

「歴代天皇はY染色体を受け継いでいるから尊い」?

 麗澤大学教授の八木秀次。この人物、真人間を保守から遠ざける天才である。  従来、自称保守の愚かな言説の筆頭は、八木氏が唱えた「歴代天皇は神武天皇のY染色体遺伝子を受け継いでいるから尊いのだ」だった。「では女帝はY染色体遺伝子を受け継いでいるのか?」の一言で論破されてしまうような愚説である。  意味不明に論壇内政治力に長けた八木氏が保守業界の重鎮ヅラをしてこのような愚説をまき散らしながら「皇位の男系継承」を絶叫するので、「アレと一緒にされたくない」「アイツの逆が正解だろう」と女系天皇論に走った人物もいる。私からすると、「敵のスパイか?」と疑いたくなる。  驚くことにこの人物、小泉内閣以降、皇室関係のすべての政府のヒアリングで意見陳述している。これではまるで、「保守は頭が悪い」と訴えにいっているようなものだ。

マーカーで引かれた“正統”の天皇

言論ストロングスタイル

「天皇の退位等に関する皇室典範特例法案に対する附帯決議」に関する有識者会議に麗澤大学教授の八木秀次氏が用意した資料の天皇系図。“正統性”のある天皇がマーカーで引かれている

 たとえば今年4月8日のヒアリングである。八木氏、過去は「どこの素人談義だ?」と疑うような一方的な言説を主張していただけだったが、今回は歴史の勉強でもしたのだろう。膨大な資料を提出した。しかし、悲しいかな一夜漬けが一目瞭然。「天皇系図」に手書きで「正統の天皇」をマーカーで引いている。見た目が「小学生が頑張った夏休みの宿題」なのはともかく、中身は許しがたい。八木が手書きでマーカーを引いた以外の天皇は、「偽天皇」あるいは「閏天皇」とでも言うのか?  何も知らない読者が、保守系媒体で重鎮を気取る八木氏を皇室の専門家だと勘違いしたら、誰が責任を取るのか!?  もう20年以上、八木氏は蒙昧をさらし続けてきたが、今回の一件は過去の所業を軽く飛び越えた。

「天皇も皇族も、日本国憲法で徹底的に縛れ」

 八木氏は小室眞子・圭夫妻の結婚に際し、新聞紙面にて三島由紀夫や福沢諭吉、イギリスの憲政史家であるウォルター・バジョットの『英国憲政論』を引きながら、井戸端会議のような論評の後に、秋篠宮家と上皇陛下ご夫妻への攻撃を始める。曰く…… 一、「皇族の人権」を認めると「即位拒否の自由」につながりかねない。 二、振り返れば、上皇陛下の退位の意向をにじませたのが大きいかもしれない。 三、皇室典範には退位の規定がなく、むしろ禁止されていたので政府が困った。結果、特措法での一代限りの特例となった。 四、この特措法は、ルールにないことでも皇室が自らの意思で実現できるとの前例になった。  要するに、「秋篠宮家の教育がなっていないので悠仁殿下がワガママを言い出して即位を拒否したらどうするのか。もとはと言えば上皇がワガママで退位したのが原因だ。だから、天皇も皇族も、日本国憲法で徹底的に縛れ」と言いたいらしい。  戦前ならば命がけの言論だ。八木氏もよほどの覚悟の上なのだろう。軽い気持ちで言論の自由を行使したとは言わせない。
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天皇や皇族は、奴隷になれと言うのか?
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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