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日銀の黒田総裁退任まであと半年。次は誰なら“まだマシ”か/倉山満

日経新聞で読み取るべきは「霞が関が上げる観測気球」

 5年に1度、『日経新聞』を購読しなければならない時節が到来した。
若田部昌澄氏が副総裁に就任した際の会見の様子(奥は雨宮正佳氏)

若田部昌澄氏が副総裁に就任した際の会見の様子(奥は雨宮正佳氏)。このまま“順当”に日銀総裁は決まってしまうのだろうか…… 写真/産経新聞社

 このようなことを言うと、文明国の経済学を学んだ人間ならば、いぶかしがるだろう。「世界唯一の増税を主張している頓珍漢な経済紙」「経済記事が無ければ高級紙。特に文化欄とスポーツ欄の緻密な取材は秀逸」などなど、『日経新聞』に対する罵詈雑言は星の数ほど聞いた。  だが、「まともな経済学を学んでも、あの新聞の経済記事が読めないほどレベルが低い」などと見下す方が、頓珍漢とも言える。なぜなら、『日経』の「経済記事」は、経済の記事ではないからだ。財務省を頂点とする霞が関官僚機構など取材元が、世間の様子・反応を確認する「観測気球」として使う媒体だからだ。だから、『日経』の政治部は永田町の政治家しか取材していない「二軍」であり、経済部は真の権力者である財務省を頂点とする官僚をも取材している「一軍」なのだ。だから、『日経』の経済記事にまともな経済学の知見を求める方が、八百屋で魚を求める如く、見当違いだ。『日経』の正しい読み方は、「誰が、どのような意図で」観測気球を上げているかを探ることなのだ。

次期日銀総裁は雨宮現副総裁の昇格か中曽宏前副総裁か

 そして、5年に1度の日銀総裁人事の季節がやってきた。2人の副総裁も交代する。今までも次期日銀総裁及び副総裁をめぐり水面下で暗闘が行われてきたようだが、いよいよ終盤の入り口に差し掛かった。『日経』をよく読めば、これまで水面下でどのような暗闘が繰り広げられてきたか、手に取るようにわかる。もちろん、『日経』以外のあらゆる媒体に目を光らせるのが重要だが。以下、『日経』以外に、『ブルームバーグ』『ロイター』『共同通信』などからも公開情報を拾いつつ、これまでとこれからの流れを読み解く。  注目すべきは、『日経』9月25日(ネット版)の記事だ。次期日銀総裁には、雨宮正佳現副総裁の昇格か、中曽宏前副総裁に絞られた、と報じる。これは目新しくない。2人とも日銀出身だ。  雨宮氏は金利に関して黒田東彦現総裁の意向に背く発言をしたこともある。最近も物価に対し金融政策の与える影響を「注視する」と発言した。「注視する」とは、「何もしない」を意味する隠語で、日銀本店の場所から「本石町文学」と呼ばれる。

二人の選択は「どちらの悪夢がマシか」でしかない

 中曽氏は英語によるパネルディスカッションで「アベノミクスは金融緩和に依存しすぎた」と発言、市場は中曽氏が総裁になっても、金融緩和の強化はあり得ないと受け取った。  しばしば、雨宮氏は黒田総裁に比較的近く、中曽氏は距離があると言われる。確かに回顧録を見ても、中曽氏は白川方明前総裁のデフレ政策に心情的に近い人物だとしか読み取れない。  この2人の選択は「悪夢の度合いが、どちらがマシか」でしかない。日銀はこれまで金融緩和による景気回復を進めてきたリフレ派を仇敵と見做し、排除を決断している。リフレ派の若田部昌澄副総裁は排除。その後任の副総裁には「女性の学者を」などと発信しているが、これは「リフレ派を排除する」との暗号だ。この動きに財務省も加担する。今回は副総裁を確保、5年後の総裁昇格を目指す。日銀と財務省の出身者が交互に正副総裁に就く「たすきがけ人事」の復活が狙いだ。これが実現すれば、官僚が勝手に人事を決められ、総理大臣の政治介入も排除できる。
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もはや「金融緩和による景気回復策をいつやめるか」が争点となりつつある
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1973年、香川県生まれ。救国シンクタンク理事長兼所長。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中から’15年まで、国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務める。現在は、「倉山塾」塾長、ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰。著書に『13歳からの「くにまもり」』など多数。ベストセラー「嘘だらけシリーズ」の最新作『嘘だらけの日本古代史』(扶桑社新書)が発売中

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