香山リカ、沖縄基地反対運動リーダーらの初公判を傍聴する
3月17日、沖縄にある那覇地裁で開かれた山城博治さん、稲葉博さん、添田充啓さん3人の初公判を傍聴してきた。3人は、沖縄・高江のヘリパッド建設、辺野古の新基地建設への反対運動をする中で逮捕、起訴された人たちだ。
私は傍聴記を沖縄の新聞『琉球新報』に書いたが、それは同紙の記者に那覇行きを伝えたら「せっかく来るなら寄稿を」となったのであり、順番はその逆ではない。そして、さらなる詳細を日刊SPA!の不定期連載のひとつとして掲載することにした。
では、なぜわざわざ仕事を休み、自分で航空券や宿を手配してまで那覇に出かけたのか。
それは、この間に沖縄で起きたこと、また沖縄を取り巻く日本の状況に心を痛め、なんとしても裁判をこの目で見たい、と思ったからだ。
しかし、傍聴記に入る前にもうひとことだけつけ加えると、私のこの姿勢は決して「偏っている、ゆがんでいる」とも思っていない。
たしかにネットで「沖縄 民意」などと検索すると、まず目に入るのは「基地建設反対は沖縄の民意ではない」「辺野古反対がオール沖縄というのはウソ」といった、基地建設推進派あるいは反・基地反対派のブログやホームページだ。
「民意とは何か」と考え始めるとそれはそれでむずかしい問題なのかもしれないが、選挙結果を見てみよう。2014年沖縄県知事選挙では、辺野古移設反対派の翁長雄志氏が党派を超えた「オール沖縄」の支持で当選した。また、同年の衆院選の沖縄選挙区で当選した4氏はいずれも新基地建設反対、そして昨年の参議院選でも現職の自民党議員を破り移設反対派の伊波洋一氏が当選。沖縄の人たちは民意をもっともはっきり表明することができる選挙において、一貫して「辺野古新基地建設反対」を掲げる候補者を選んできた。
単純に考えて、この結果を見ても「いや、基地反対派は実はほんの一部の人たちだ。反対が民意だなんてウソだ」と主張するのは、あまりに無理があるのではないだろうか。
さて、今回の裁判の話に移ろう。今回、裁かれるのは「3人で4つ」の事件だ。
まずそれについて整理しておきたい(文中、敬称略)。
第1の事件……2016年8月25日、高江の活動拠点である「N1裏テント」で沖縄防衛局職員の書類を奪いけが(全治2週間)を負わせた疑い(公務執行妨害と傷害の容疑):山城、添田
第2の事件……2016年1月28日から30日にかけて、名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブゲート前で、コンクリートブロック1400個を積み上げて工事資材の搬入を阻んだ疑い(威力業務妨害の容疑):山城、稲葉
第3の事件……2016年10月17日、米軍北部訓練場内に侵入し、有刺鉄線2本(2000円相当)を切断した疑い(器物損壊の容疑):山城
第4の事件……2016年9月24日、米軍北部訓練場に侵入し、防衛局員を転倒させけが(全治2週間)を負わせた疑い(公務執行妨害、傷害、刑事特別法違反の容疑):添田
この3人はそれぞれ沖縄に来た経緯や背景も異なるし、初公判の時点でどんな状況にあるかもバラバラであった。これらについても、簡単にまとめておこう。
山城博治さん……2016年10月17日に逮捕されてから勾留が続く。弁護士以外との接見は禁じられていたが、この3月13日に妻との20分の面会がはじめて認められた。なお山城さんは沖縄出身、東京の法政大学を出てから沖縄に戻り、現在は沖縄平和運動センター議長。沖縄の平和運動の象徴的存在といわれる。過去2回、参議院選挙に出馬しいずれも惜敗している。64歳。
稲葉博さん……2016年11月29日に逮捕されてから勾留が続いていたが、この3月8日に保釈された。稲葉さんは本土出身、会社経営などを経て、3年前より沖縄の反基地運動に参加するようになった。66歳。
添田充啓さん……2016年10月4日に逮捕されてから勾留が続く。接見は可能。
添田さんは東京出身、在住。沖縄の反基地運動には昨年7月にはじめて参加。
劣悪な家庭環境で少年時代を送った添田さんは、さまざまな経験を経てから、反差別活動の団体「男組」を作り、持ち前のリーダーシップとその経歴から「組長」というニックネームで呼ばれていた。
初期の抗議活動はしばしばヘイトデモ参加者との直接対決となり、「殴られた」などと被害届が提出されて3度、逮捕されている。そのうちのひとつ、在特会メンバーとの対峙での逮捕では、2014年2月「懲役10カ月、執行猶予3年」の判決が下された(ちなみに現時点ではすでに添田さんの執行猶予期間は終わっている)。44歳。
さて、このように異なるバックグラウンドを持った3人であるが、今回は第1、第2、第3の事件について審議が行われることになったのだ。
この裁判にはいろいろな意味で全国の注目が集まっていたが、その理由のひとつに山城さん、添田さんが10月に逮捕されて以降、度重なる保釈申請も却下され、5ヶ月にもわたって勾留が続いていることがあった。起訴内容は「全治2週間の傷害容疑」や「ブロックをゲート前に積んでの公務執行妨害」など、それぞれはいわゆる微罪なのに、ここまでの長期勾留は人権侵害だとして、アムネスティが国際キャンペーンを行ったり国内の刑法学者たちが抗議声明出したりする状況になっていた。
また、リーダーの山城さんが不在でも、高江や辺野古での基地反対派の抗議活動は変わらずに続いている。辺野古では翁長知事が埋め立ての承認を取り消したが、国が県を提訴、最高裁判決で県が敗訴したため建設作業も再開されていた。また1月には東京ローカルのテレビ番組『ニュース女子』が「日当をもらってやっている」「テロリストのようなもの」などと一方的な視点から反対活動を取り上げ、物議をかもしていた。
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