第505回

4月8日「 iPhoneユーザーが知らないこと」

・Androidのスマホを使ってる人には、うっかり口約束をしない方がいい。

・iPhone使っている人は知らないと思うけど、Androidユーザーは今もうすでに、全ての会話を録音しているからだ。Android端末はただアプリをセットするだけで通話が自動的に録音されるようになるのである。

・会話もメールと同じように、残るものになっているわけだ。何年何月何日の何時何分何秒に誰と何を喋ったか、ずっと後からでも確かめられる。テキスト変換ツールなどを使って音声を文字にしておけば、過去の全ての会話から必要な情報を自由自在に検索できる。○○さんの誕生日に何あげよう、そういえば半年くらい前にあの人ほしいものがあるって言ってたっけ……例えばそういう時、一瞬で調べられるわけである。

・やがて誰もが24時間、見たもの聞いたことを全て録画録音し自由自在に検索しながら行動するようになるだろう。そんな時代への一歩は、たとえばこんなふうに始まっている。今後、言った言わないでもめるようなことはなくなっていく。

・まもなく、スマホの録音データも、ドライブレコーダーのように法的根拠として認められるようになるだろう。残業証明にも使える。夫婦の会話の変遷も残るから、離婚調停もはかどることになる。そんな世の中になってくると、会話はできる限りスマホを通して行うということになる。向かい合っている人どうしでも、話をする時はスマホをONにするようになるだろう(今すでに、オフィスなど同じ空間にいても大事なやりとりはメールやLINEでやってるでしょう?)。

・ところがなんとiPhoneにはこの機能がない。何やってんだiPhone。アメリカでは相手の同意無しに通話を録音することがプライバシー侵害=違法とされるからだ。なんでアメリカの法律で僕らの使い勝手が制約されにゃならんのだと思うが、アップルとしては世界中に同一端末を普及させるという姿勢を堅持せざるを得ないのである。今後もこのサービスが公認されることはなさそうだ。

・グーグルグラスの一般普及が頓挫しているのも、プライバシーに厳しいアメリカの法律に抵触することをおそれているからだろう。もちろんロビー活動は進んでいるだろうし、アップルやグーグルといった先進企業はタイミングをみて画期的な新製品や新サービスをリリースすることで、変化を強制的に加速しようとするだろう。

・この機能のために今はAndroidを使っている。そしてどうでもいい人とのどうでもいい会話も、消さずにとっている。A1Hの視覚動画はまだ一日中というわけにはいかないけれど、外出する時は撮り続けている。そういうものが、ずっと後になって大事になるということがわかっている。30年くらい前のテレビ録画が大量にあるんだけど、一生懸命高画質で予約録画した映画より、スキップしそびれたCMの方がずっと貴重になっていたりする。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。