第510回

5月13日「20年後コンピュータが夢魔になる」

・日本人はあと10年~20年のうちに生殖形態を一変させる必要がある。急がなくては少子化は加速し、国家は崩壊する。

・まず恋愛というものが架空の相手と行うものになることを、きちんと受け入れていかなくてはならない。日本ではオタクマーケットにおいてその状況が十二分にシミュレートされていたことは幸運だ。ゲームやアイドルのマニアは、そしてバーチャルYouTuberのリスナーやラブドールのオーナーは、新時代を先取りし、準備していた先駆者だったのだ。

・恋愛対象はゲームやアニメから飛びだして、日常生活に入り込んでいく。例えばスマホの秘書アプリがリアルなバーチャルキャラクターになる。例えばAIスピーカーが可動式の美少女フィギュアとなる。抱き枕あるいはラブドールにヒューマノイドロボット技術が導入される。

・ハードウェアより大事なのはソフトウェアで、肝心なのはその恋愛対象の容姿や声や性格だ。そのデザイニングについてはゲーム業界やアイドル業界が、というかオタク層が数十年にわたって培ってきたノウハウが活かされる。最初は既存のキャラクターや実在のアイドルからスキャンされる(容姿だけでなく、思考ルーチンについても)だろうが、もちろんユーザーがカスタマイズすることもできる。

・もちろん人間相手の恋愛も残るだろうが、それも、肉体的に出会って行うケースは極端に少なくなるだろう。バーチャル空間で出会い、愛をはぐぐむ。その際、自分の姿は、好きにデザインすることができる。もちろん相手の姿を、自分の好きな形に調整することもできるわけだ。

・つまり、全ての人が自分にとっての理想の相手と恋愛し、結婚できるようになるということだ。物理的な性行為はVRマシンやセクサロイドの上で営まれるようになるが、この時、利用者からは精子や卵子が……DNAが採取されることになる。マシン内部のカプセルに一時保管された後、定期便によって回収され、遺伝子情報とともにDNAバンクに保管される。

・DNAバンクのコンピュータ内ではたえず遺伝子マッチングのシミュレーションが行われ、スーパーな組み合わせが見つかると「カタログ」に掲載されることになる。

・つまり、子作りはまた別のライン上で行われるものになるわけだ。子供がほしくなった人はこのコンピュータに希望の条件を入力する。100メートル9秒台で走るアスリートでも、知能指数200オーバーの天才でもいい。絶対音感や9等身や超長寿といった要素を追加してみてもいいだろう。全ての条件を満たした人間が、カタログから検索されて表示される。気に入ったら購入して、人工受精そして人工子宮への着床をオーダーする。

・以上かなりはしょって書いてしまいましたが、つまりですね、今後、VRマシンが人々の性欲を吸収する。だけではなく、生殖活動までをサポートするということを言っときたいのです。

・夢魔の伝説がある。悪魔は男性に会う時はサキュバスつまり理想の美女の姿となり精子を奪取する。そして選ばれし女性のもとに理想の美男インキュバスの姿で訪れ精子を注ぎ妊娠させる。何をやっているかというと、DNAのマッチングを愚かな人間の愚かな恋愛にゆだねずに悪魔の知恵によって行い、スーパーベビーを作ろうとしているのだ。

・それぞれの理想の姿を擬して誘惑する機能、そして理想のマッチングを決めて遠隔の男女を使って子作りをさせる機能。今のVRとネットワークのテクノロジーによって実現されうるものだ。つまりコンピュータが、新時代のサキュバス・インキュバスになっていくと考えるべきなのだ。 ※参考→「少女再生装置」

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。