第513回

6月4日「虫の日のホラー」

・家の昆虫舎では毎年かならず6月4日に、カブトムシが羽化する。スズムシが孵化する。夏が来る。

・僕が昆虫とか好きなのは夏休みの感じがあるからだ。ずーっと一生、夏休みの中にいたいからだ。つまりね、昆虫の魅力はゲームやアニメと似ている。

・さて去年は大変なことがあった。ケースのフタに隙間ができていて、200匹以上いたカブトムシがぜんぶ脱走してしまった。家じゅうカブトムシだらけだ。

・探し回ってほとんど捕まえたのだけど、20匹くらい足りない。機械の中に入り込んだりしたら大変だから気になっていたのだが、どこにも見つからない。

・数日後、キッチンからすごい音が聞こえてきた。床で何かがばたばた暴れているような音。やばいと思って見に行ったら、カブトムシの一匹が、ルンバと戦っていた。

・さらに数日後、パソコンがおかしくなった。いくらマウスを動かしても画面が動かない。しばらくたってから気づいた。手に持っていたマウスが実はマウスではなくて、カブトムシだった。

・そして、1年後の今日、つい先ほどの話。ショートケーキを食べていたのだけど、どうも、何かがおかしい。なんだろうこの感じ。

・違和感の正体に気付いた時、戦慄した。フォークだと思って使っていたものが。

・カブトムシの角だった。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。