第93回

02年11月21日「カルト作品の条件」

・渋谷シネクイントでアニメ映画『TAMALA2010』 を観る。デザインセンスの凄みは全編に溢れる。レトロフューチャリスティックかつマンガチックな街の中、パンク猫TAMALAがむちゃくちゃ可愛らしい。TAMALAの設定は、永遠に老化しない、死ぬこともできないスーパーアイドルのイメージ。商業的にハイレベルなキャラクターデザインは、このヒロインの哀しさを裏付けているわけだ。

・制作者としてクレジットされているt.o.Lは人気クリエーター・ユニットらしい。どのジャンルのクリエーターもパソコン上で作業をするようになっている。腕が立ち思想があり、志の高いデザイナーやミュージシャンが、コンピュータの上で自分の作品世界を加速していくうちに、その絵や音源が映画になってしまう、ということは今後しばしばありえることだろう。

・ただ、長尺の映画を作る際にはシナリオの重要性を忘れてはいけない。この作品の場合、巨大かつ複雑な設定を後半、突然出てくるキャラクターが長いセリフでいっぺんに説明してしまう。世界観をストーリーに反映できていたら、以後この作品を象徴かつデータベースとして機能させ、ここからTAMALAイメージを様々な商品に展開していけたのにと思う。

02年11月22日「桃源郷」

・新宿西口の地下深層に超巨大スペースが存在することをほとんどの人は知らないと思う。木ノ花さくやさんと一緒に、ここに潜入した。27万ボルトの高圧電線が網の目のように走り、計測装置、冷却設備、自動消火装置など、ハイテクの粋を集めたマシンが入り組んでいる。僕らが普通に行き来している街の薄皮一枚下に、異世界が広がっているのである。

・偶然かもしれないがこのスペースのほぼ真上の位置が、都内有数のパワー・スポットだった。以前、超能力者の清田氏に教えてもらった場所だ。最近はホームレスの方々がここでコミューンを作って暮らしている。体を壊してよれよれになったホームレスでも、ここにたどりつくや否や元気になってしまうという噂である。

02年11月23日「オンライン商売のコツ見つけた」

・渋谷のパルコブックセンターで{オンライン古書店主顔見せ興業」というのをやっていて、賑わっていた。なるほど。

・ネット上にお店を開いて儲かっている例はまだとても少ない。しかし、中野プロードウェイあたりで中古レコードショップや古書店などに話を聞いてみると、最近すごく儲かっているという話をよく聞く。そういうところはたいてい、ホームページの運営と、現実の店舗の営業とをうまく両立させている。ホームページでは広報だけでなく情報収集、そしてオークションなどのパフォーマンスを活発に行う。現実世界のお店を、そういう活動のアンテナショップと位置づけているわけである。顧客側は、注文をしたりお金を払う先としては、一度も行ったことがなくてもその現実のお店をイメージすることになる。そうやって、中野ブロードウェイの3坪のお店で1万人の客をさばくことができる。

・アンテナショップはどんなにへんぴな場所でも、どんなに狭くても構わないのだ。その限定性が逆に価値になる可能性もある。一度はそのお店を訪れたいと思いつつ利用するような客を増やすことが肝要らしい。

・ところで「中野ブロードウェイで渡辺浩弐見つけて1000円渡せた人はハッピーになる」という噂は本当らしいよ。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。