第120回

03年6月7日「なんかくやしくない?」

・『マトリックス・リローデッド』。これを「(日本の)アニメ的なSFX映画」と定義してしまうのは軽率だ。

・日本映画の制作現場では特に予算面の問題があり、ダイナミックな世界観の描写はなかなか難しかった。その状況を横目に、実写でできないことを思う存分やってきたのがアニメ業界なのである。そこで数多く発見されてきたノウハウを、今のハリウッドならば実写に生かすことも可能になっている……という事実を見せつけているシリーズなのだこれは。

・今日本のアニメがおだてられている理由を、もう一度きちんと考え直した方がいい。このチャンスに、世界マーケットに向けた大作「アニメ」を作ることに必死な人が多いみたいだけど、それでいいのか。実写か絵かということにこだわらずに、マンガやアニメの世界で生み出された感性をデジタルの領域に展開する方法論を、いろいろと探っていくべきではないのか。

03年6月8日「ビーチバレーしてほしい」

・てなことを考えていたら、ちょっと面白いソフト発見。プレステ2対応の『モーショングラビアシリーズ』。静かな話題になっているものらしい。小池栄子、Megumiら巨乳グラビアアイドルを表紙にボイーンとフィーチャーしてるもので、非常に買いにくいことが難点だが。

・アイドルのグラビア風動画を、プレステ2でアングル操作しながら観ることができる。DVDによくあったマルチアングルとは違い、くっきりとしたデジタル画像に対して、自分でカメラを持っているようにスムーズに回り込んだり、ズーミングしたりできるのである。

・『マトリックス』で有名になったマシンガンカメラによるあの映像を、自分の手で操作できるということになる。巨乳を忘れてゲーム技術として見るとこれ、結構すごいのではないか。続く。

03年6月10日「注目のゲーム技術」

・この技術について、つてをいろいろと探したら、以前担当ラジオ番組にお招き下さった音楽プロデューサー野中英紀さんがご存知だった。彼に同行頂き、モノリス社に。『モーショングラビアシリーズ』の基礎技術(”フレームフリー”というらしい)を提供している会社だ。ここで映画監督でCGプロデューサーのはくぶん氏に紹介してもらった。キーパーソンはこの人だった。

・ツールと実際の制作プロセスを見せてもらい、さらに驚いた。マシンガンカメラのような特殊な装置を使っているのではない。つまり大量の画像をデジタル処理したものを見せているわけではないのだ。ただわずかな時間差で撮影した2枚の写真を入力するだけで、その間のシーンを補完してしまう仕組みである。スムーズな動画にしてしまうこともできるし、それをプレイヤーに操作させることもできる。アングルに変化をもたせれば、カメラ位置の変化を操作させられるものになるというわけだ。

・モーフィング作業のように点と点のマッチングを手入力する必要はない。なのにたった2枚の写真から、自動的に、立体的な動画ができてしまうのだ。3Dの物体や空間イメージをちゃんと判断して計算処理を行うAIが搭載されていると考えても良いと思う。

・デジタルの画像が2枚以上あれば、ハイビジョンクオリティーの動画を作り出すことができるということになる。これをアニメ作成ツールとして使えば『マトリックス』の先の映像が作れるかもしれない。その映像はバーチャル空間としての特性を既に持っているわけだから、それでインタラクティブなゲームもできてしまうわけだ。

03年6月17日「飯田監督、次は怪獣映画かな」

・『ドラゴンヘッド』試写。廃墟の中をすってんすってん転びながら進んでいく主人公のテンポなど、生理的にイライラさせられる映像が続く。そこが良いところなのかもしれないが、今映画にいらだちを求める人は少ないかな。今このパターンなら自分でページをめくるマンガや自分でボタンを押すゲームの方がいいか。

・人が死ぬシーンをほとんど描いていないのは良識だが、もったいない。『バトル・ロワイアル』の場合は、死ぬ瞬間の描写を、生理的快感を喚起するスイッチとしてあこぎに使っていた。

・崩壊した東京の風景描写は最高にすばらしい。SAYAKAのはにわのようなあっさり顔も良い!
(写真はイメージです)

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。