第133回

03年9月19日「たまには10年くらい休もう」

・映画プロデューサーの小林千恵さんに「近くで飲んでいるので」と誘われて出かけてみると、石井總互監督がいる。「やあお久しぶり」という感じで会話が弾んだが、後から日記データをサーチしてみると石井さんと会ったのは15年ぶりなのだった。

・石井さんは15年前と全く変わらず若い。今また活発に映画を撮り続けているが、80年代から90年代にかけて10年間、まるっきり映画を撮っていない時期があった。そしてテンションとパワーを全く落とさずに突如復活し、今に至るのだ。その10年間は人工冬眠していたのではないかと思う。

・チャンスに恵まれない時は、10年くらい寝ててもいいのだと僕は思う。下手に右往左往して老けていくより、じっくり構えて若さを維持したまま時機に備えるという手もあるのだ。

03年9月20日「文学も面白いよ」

・「激変する文芸 ファウストフェスティバル2003」@紀伊國屋サザンシアターに、講談社の新文芸誌『ファウスト』創刊イベントである。

・『ファウスト』は、講談社ノベルズを拠点に”メフィスト系”と呼ばれる新潮流をプロデュースした名物編集者・太田克史氏が完全ワンマン体制で編集した新文芸誌である。かなり売れているらしい(第2号は2月発売予定)。トークショウには佐藤友哉氏や滝本竜彦氏など参加作家がずらり出演、最新DTPの解説などもあって非常に楽しめた。

・そして超満員の観客はほとんど10代。文学も面白くなってきてるぞ。

03年9月26日「東京ゲームショウ その1」

・TGS(東京ゲームショウ)。オープニングは任天堂・岩田聡社長の基調講演。「ファミコンから20年」と題されたもので、一人の古参業界人としてゲーム史を振り返るトークには好感が持てた。映画や音楽と違うゲームならではの楽しさに立ち戻ろうとするこの人の、そして任天堂のスタンスは正しいと思う。

・ただし、注意すべきはそのスタンスは90年代以降のゲームの進化を否定することから導き出されるべきものではないということである。「昔は良かったなあ」という視点は受け手には許されるが作り手には許されまい。

・さて岩田社長はオンラインゲームに否定的で、そんなものを盛り上げようとする輩はハイテク詐欺師だとまで罵倒してた(ちなみに岩田氏の後は『モバイルオンラインゲームの新しい可能性』『次なるオンラインゲームへの挑戦』『オンラインプロジェクトの使命』てな感じの講演題目がずらりと続いていた……皆さんやりにくかっただろうなあ)。

・この岩田氏の主張は、SCEの久多良木社長のものと一致するところだ。技術畑出身の社長として、同じ近未来が見えているのかもしれない。任天堂が現実的なネットワーク活用法としてゲームボーイ用のワイヤレスアダプターを発売するあたりも、PSPをあえて携帯電話にしてしまわずに無線LAN対応にしたSCEのコンセプトと近いものがあると思う。

・と、ここまで書いて時間切れになった。TGS詳細は来週ぶんでレポートします。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。