第139回

03年10月27日「一生寝て暮らす方法」

・終日、ごろごろしながら原稿書き。僕の場合本当に寝ながら書いている。例の特製マイクを鼻の穴に入れておいてしゃべる。と、その音が音声認識されてテキストデータになるシステムを組んであるのだ。

・半分眠りかけながら思いついたことを口もあけずにふにゃふにゃと喋る。そんなことを一日やってると相当分の原稿がたまっているので、後でそれをテーマに切り分けて推敲して媒体別に振り分けて売る。

・この方法を続けているとひとりごとを言う癖がつく。面白いのは、ほとんど眠りかけの時や起き抜けの時に自動的に書かれた原稿で、夢うつつの脳裏をよぎった風景やイメージが書かれていることである。夢を録画する感じだ。それを素材にして小説を書くこともある。

03年10月28日「ゲームとCG」

・「TIGRAF(東京国際CG映像祭)」の打ち合わせで、主催者の方々、そしてモノリスソフトの杉浦氏、スクウェア・エニックスの直良氏、そして元UGAの水口氏とミーティング。

・ゲームの場合、CMや映画におけるCGと狙いが違う。ただ美麗な微細な映像を追求するだけではだめなのである。映像のすばらしいクソゲーはいくらでもあるわけだ。このあたりが難しいところだ。僕としてはこの際クリエーターにゲームの「脱・CG」傾向について話してもらっても面白いと思うんだけど、そういう論議においてはCG映像祭という企画そのものを否定するような意見も出てくるかもしれない。どうなることやら。

03年10月29日「僕らは本当に豊かなのか」

・中国へのODAや北朝鮮への人道支援の見直し論が盛んだ。どっちも上の方が贅沢三昧で札びら切ってる状況が見え見えだからである。

・しかしね、日本国民のほとんどが、かの国々の民衆について貧乏だと思いこんでるならば、それでなにがしかの救いや憩いを得ているのならば、援助は続けるべきなのである。

・だってこれらの国々の主要生産輸出物は「貧困」なのだから。

03年10月30日「アメリカが23人の村だったら」

・『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のラース・フォン・トリアー監督の新作『ドッグヴィル』試写。テレビゲームはリアル化が進みすぎてつまらなくなっていると思う今日この頃。その反対に映画の抽象化は本当にすごいと思った。

・どれほどすごいかというと。3時間にもわたる超長編の舞台は廃工場を改造したスタジオ一カ所のみ。そこが山奥の小さな村「ドッグヴィル」を表す。ところがセットはなく、ただ、床に引かれた白い線だけで、道路や、広場や、それぞれの家が示される。俳優は透明な空間の中で演技を続けるのである。なんというか、アリの観察の様な視線。

・映画の抽象化によって、アメリカ社会を抽象化する試みである。たった23人のキャストで、現在の全アメリカを象徴してみせるのだ。そこをシンプルな閉鎖空間と過程することによって、その過去と現在と未来をシンプルな思考実験の対象にしてしまうことに成功しているのだ。

・複雑化していくにつれその社会は仕事のための仕事を生み差別のための差別を拡大していく。そしてその結末はあまりにも衝撃的だ。ハリウッドが「アメリカって本当に素敵な国」と思わせる映画ばかりを作っているからこそ、「アメリカって本当にやな国」と思わせてくれるこういう映画は重要だ。

03年10月31日「ハロウィン」

・タトゥー東京にて、カプコン社『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』ゲーム化発表会。1年後に発売予定の作品だが、既にかなり仕上がっているようで驚いた。あの心にちくちくクる異様なキャラが3D-CGになってかっこ良く動いてるぞ。

・ハロウィンパーティー形式の発表会だったので、三並プロデューサーはじめ列席者は全員コスプレしていて、挨拶しようにも誰が誰だかわからない。

・僕はというとその後に着替えて、イエローの『キル・ビル』ナイトに。ビル・ゲイツのコスプレをしてったのだ。着るビル。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。