第142回

03年11月17日「ネコはほっとけよと今さら思う」

・『エイリアン』試写。もちろんあの作品だが、1979年ではなく2003年度作品とうたわれている。かなり入念な手入れが行われ、ディレクターズ・カット/デジタル・リマスター版として自信作になったということか。

・後半、ものすごく重要なシーンが復活していて狂喜。見てのお楽しみだが、「巣」と呼ばれるこのシーンがカットされてしまっていたことに逆に驚く人も多いだろう。見直してみればここに向けての伏線も張られていたのだ。ただ、カットされたおかげでこの映像イメージは次作へと引き継がれることになったわけである。

・名画座がなくなってしまった今、昔の映画を大スクリーンで見る機会は貴重なので、タイミングごとにこういうサービスをやって、再映の「言いわけ」を作ってほしい。僕がこれを最初に見たのは17歳の頃。映画館から出てくる時の、粘液の海で溺れた後のような感覚をまた思い出した。ビデオで見てもなかなかああいう感覚は味わえないのだ。

03年11月19日「久々のタイムマシン」

・『タイムライン』試写。遺跡の中から発掘されたメガネのレンズとSOSメモに導かれ、若い発掘チームが戦乱時代の中世ヨーロッパにタイムスリップする。

・もちろん原作はマイケル・クライトンによるベストセラー小説。タイムマシンというもはやクラシカルな素材を使って今のSF作品を書き上げちゃうところに、クライトンの創作の秘密がある。徹底的な取材を元に、ホントのようなウソを成立させてしまうのだ。ここでは量子転送テクノロジーや、偶然によるワームホール発見といったタネを組み合わせて大がかりなマジックを仕掛けている。お手軽宇宙論を読んで物知り顔になり、小説や映画にまでタイムマシンなんて不可能だよと文句をつけるような人に限ってこういうギミックにはコロリといっちゃうからいい案配なのである。

・ただし、そういう理論武装を除いたらテーマとしては実は地味なものである。そして73歳の御大リチャード・ドナー監督はデジタル合成が嫌いなようで、代わりに巨費を投じて大がかりなセットを組み撮影している。おかげで時代劇としては本格的なものになったが、派手なビジュアルショックはない。若い人はそこが物足りないかも。

03年11月28日「断磁気」

・ひなびた温泉地の旅館にこもっていた。断食で肉体をリフレッシュするように、年に一週間くらいテレビもパソコンもない生活をしてみると脳の具合が非常に良くなる。不思議なことに味覚や嗅覚も鋭くなる。

・潜在意識下でずっと暖めていた新シリーズを、ここで書き始めることができた。これは話題の新文芸誌『ファウスト』に売り込みにゆこう。

・ところで僕が連載している間はその雑誌は絶対に潰れないというジンクスがある。だから僕には10年以上続いている仕事が多い。『ファウスト』も、僕を使ってくれれば10年や20年は楽に続くだろう。というわけでよろしく太田編集長。

・小説が仕上がった瞬間に虹を見て気分爽快=写真。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。