第153回

2月24日「踊る大走査線」

・『デジタルメディアカーニバル2004』を見にフジテレビ本社@お台場。フジのCG部門主催による、業界に対してのプレゼンテーション・イベントである。

・テレビ局は、最新デジタル技術の活用についてはコンテンツの制作から発信まで全プロセスにおいてノウハウを先取りできる立場にあるわけだ。この優先的地位を生かして制作された映画や番組のメイキングを現場の社員が丁寧に解説してくれる。合成技術を駆使して仮想レインボウブリッジをロケーションした『踊る大捜査線2』や、HD映像をとことんCG処理して崩壊していく渋谷を描写した『ドラゴンヘッド』など。映像が何十、何百のプロセスで変化していく過程が大画面でショウイングされ、非常に興味深かった。

・CGとの合成やデジタルエフェクトを前提にした制限をちゃんと計算しながら撮影を進めていかなくてはならない。これが大変そうでもあり、楽しそうでもあり。監督やプロデューサーは、ブルーバックの前の俳優を撮ってる時に完成画像をありありと思い描くことができる才能が非常に重要になってくるようだ。それはどうすれば身に付くのだろう。

2月25日「編集長は渡辺(浩)さん」

・映画ライターのジャンクハンター吉田さんに誘って頂き、三才ブックス『ゲームラボ』編集部に遊びにゆく。

・極北ゲーム誌というイメージを持ってる人も多いかもしれないが、この雑誌、実売部数ではかなりメジャーの領域にあるのだ。そしてゲーム改造や萌え系同人の情報だけではなく表現倫理や著作権についてジャーナリスティックな問題提起も盛んに行っている。要注目である。

・渡辺編集長と話すことができた。「ほとんどのゲーム雑誌はメーカー側の、宣伝する側の立場で編集されている。うちは読者の立場で、ゲーマーが必要とする情報を考えて編集している」とおっしゃっていた。その後、吉田さんや編集部の岩田さんといろいろ話が盛り上がり、僕も少しだけど書かせてもらうことになった。

2月26日「象の徴」

・そのジャンクハンター吉田さんの強いお薦めで、『エレファント』を観た。コロンバイン高校の銃乱射事件をモチーフにしてカンヌでグランプリと監督賞のW受賞に輝いた作品。

・けだるさやさびしさに満ちた高校生達一人一人の日常を延々と捉え続ける。事件が起こっている時間ではなく、何も起こっていない時間こそがきりきりと痛い。パニックの映画ではなく、その直前の時間の映画なのだ。そこに普遍性があり、激しく共感もできる。

・校内で過ごす高校生達の中でカメラは移動し続ける、主役を切り替えながら信じられないほど見事な長回しが続き、それが時に交錯する。結構デジタル技術が使われているのかもしれない。きっとモーションコントローラーで同じシーンを何度も撮って合成して繋いで……なんて考えるのは野暮か。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。