第155回

3月8日「クサマトリックスて」

・森美術館で、草間彌生さんの個展『クサマトリックス』。水玉をテーマにした様々な空間表現はもうおなじみだけど、六本木ヒルズ地上52階の巨大ホール、というセッティングにこれがとても合っている。全編鏡張りの暗室に数千の発光ダイオードを吊るした部屋が特に凄かった(5月9日まで)。

・今なら一つ上の53階で、若手アーティスト57名をフィーチャーした展覧会『六本木クロッシング』が行われている。こちらもスペースを贅沢に使った素晴らしく居心地の良い空間。メッセージ性を読みとりに行くのではなく、ぶらりと立ち寄って、若い才能の可愛らしさやかっこよさを味わうのが良いと思う。会田誠さんの巨大アニメ絵(?)に感動した(4月11日まで)。

3月9日「リバイバルではなく」

・オペラシティのコンサートホールで、スクウェア・エニックス主催イベント『ドラゴンクエストスプリングミーティング2004』。すぎやまこういち氏の指揮によるオーケストラ演奏から始まり、25日に発売される『ドラゴンクエストV 』(PS2)のほかケータイ向け『ドラゴンクエストi』そして制作中の『ドラゴンクエストVIII』(PS2)等、ドラクエシリーズの今後の展開がプレゼンテーションされた。

・和田社長は、ドラクエというタイトルのスタンダード性を強調していた。世代が一周回ったから、旧作を再度リリースしてもまた全く新しいマーケットを獲得できるはずだ、ってことをアピールしたかったのだと思う。しかし、昔、スーパーファミコン版をやり込んだ人間でも、今回の『V 』は懐かしさだけではなく新鮮な気持ちでわくわくできるし、楽しめる。ファミコンミニとは違うのだ。

・ゲームのメーカーはハードの進化に追われて大変だと思うが、そのおかげで、過去のタイトルをリバイバルではなく新作としてリリースすることができる。ドラクエは特に『物語』に強みがある作品であり、かつその創り手である堀井雄二氏がリメイクのたびに手をかけている。その2点が重要なのだ。スタンダード化は堀井さんやすぎやまさんが死んだ後にでも考えればいいのではないか(あ、もちろんですが長生きして下さい)。

・『VIII 』の動画も初公開された。いかにも鳥山ワールドで、しかも立体、しかも動く。日本のアニメやマンガが3D化、インタラクティブ化していく方向はこれが正解だと思う。マンガを3D化したキャラクター、つまりフィギュアっぽい人物にリアルな人間の動きをつけるとちょっと違和感があるかもしれない。自分で操作するとそうでもないのかな。

3月10日「豚丼に思う」

・世界各地でいろんな動物の肉を食べてきたという学者さんと話をしたことがある。その人はシマウマもゾウもアルマジロもゴリラも食べたことがあって、ちゃんと証拠の写真も見せてくれた。

・結局何が一番美味しいですかと聞いたら、どの動物がうまいとかまずいという考え方は間違えていると言われた。どんな動物にもうまい部位とまずい部位があるんだと。そしてどの部位でもそれなりに食べられるし量が取れるのが牛なんだって。なるほど。

・ではいちばんうまい部位で比較したらとしつこく聞いたら、簡単に言うと人間に近い動物ほどうまいんだと。類人猿の肉はなかなか入手しにくいけど、遺伝子的には豚もかなり人に近いという。きちんと育てられた豚なら相当に良い肉が取れるはずなんだって。

・そしていままでに食べて一番感動したのは「ヒトブタ」の肉だと言ってた。遺伝子操作で人間の遺伝子を組み込んだ豚。臓器移植のために生み出されたもので、皮膚も内臓もほぼ人間と変わらない。特にレバーと脳が絶品らしい。

・話がそれたが、つまり僕が言いたいことは、例えば牛のクズ肉よりちゃんとした豚肉の方が絶対に美味しいじゃん、ということです。みんな洗脳されてないかい。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。