第162回

4月27日「コントローラーかキーボードか」

・CESAの2004年度版調査報告書が届いた。「日本・韓国ゲームユーザー&非ユーザー調査」がテーマになっている。つまり今回は日韓の比較を軸にゲーム産業のデータをまとめているわけである。

・一般生活者を対象にしたアンケートの結果、ゲームを継続的に遊んでいるのは日本では37.6%。その1割程度がネットワークゲーム参加者らしい。なかなかの数字じゃないかと思うかもしれないが、これが韓国では61.8%。そしてその6割強がネットワークゲーム参加者である。韓国ではゲームそれもオンラインゲームが、国民的現象になっているのである。

・僕の授業にも韓国からの留学生がたくさんいるので話を聞かせてもらった。韓国ではパッケージゲームの産業が成立しなかったこと(その理由は海賊版問題や90年代の不景気など諸説ある)がポイントのようだ。ゲームのブームは、オンラインゲームから始まったのだ。それはIT産業振興やインフラ普及についての国家施策と相まって爆発したわけである。

・CESAの報告書に戻る。ゲーム熱中度理由として「日本では『ゲームを通して友達や同僚と話す機会が増えた』、韓国では『ゲームをしてコンピュータ及びインターネットをうまく使いこなせるようになった』がそれぞれ高ポイントに」ということ。ゲーム熱中度理由という言葉がわかりにくいし(「ゲームに熱中する理由」というより「ゲームに熱中した結果」という意味だろうか)これは調査結果というよりちょっと恣意的な分析だと思うが、ここに非常に重要な問題提起が含まれている。

・韓国でゲームというものはパソコンで、ネットでするものなのだ。そこに、ゲームから次のコンテンツやサービスに進む可能性がある、ということだ。では日本ではどうなのか。ゲーム機じゃなくてパソコン使おう、ということではなく、ゲーム機のインターフェイス上にいろいろなコンテンツを対応させるべきなのだと僕は思う。

・さて留学生の方々の話では、最近はPC房(インターネット・カフェ)で、集まった人がパソコンを離れてボードゲームに興じている光景を良く見るという。韓国全土にあるPC房も、重要なインフラというか文化拠点として使われていくだろう。

4月28日「チュンソフトの潔さ」

・『3年B組金八先生 伝説の教壇に立て!』(PS2/6月24日発売予定)をテストプレイさせてもらいに、チュンソフトに。

・すごく、わかりやすい。ゲームをほとんどやったことのない人でも、解説書を読まなくても、すぐにはまれるだろう。プレイ中メモも取らなくて構わない。そういうゲームだ。ゲームの裏側の構造を意識せずにすいすい先に進めるところが良い。

・いや僕たちはそれを意識したいんだよ、と言う人は多いだろう。緻密なメモを作成しながらのプレイが楽しいんだ、と。例えば分岐の選び方によるシナリオ構造の変化パターンをしらみつぶしにすること。例えば登場キャラクター一人一人のパラメーター変化を逐一推測しながら進めていくこと。そういうことの大好きなマニアが実際、現在のゲーム市場をぎりぎり支えているともいえる。そしてチュンソフトは全ての作品において圧倒的な作り込みによって、そのニーズを納得させてきたメーカーだ。

・しかしこのゲームでは、そういうマニア向けのサービスをすっぱり切り捨て、「物語」に回帰しているように思える。ここにはチュンソフトの大胆な思い切りがあるのではと推測する。

・この話、完成版をきちんとやり込んでから続きを書きたい。”『金八先生』はサウンドノベルではなく美少女ゲームである”論も。

・ところでこのソフト、ゲーム雑誌上でのページ占拠率はかなりのものなのに、どれを読んでも、すごくマニアックなゲームに思えてしまうのはなぜか。このゲームの特性が、専門誌のフォーマットやノウハウに向かないということなのだろうか。

5月6日「寝てできる仕事」

・沖縄に。寝ころんだままでずっと原稿を書いている。『Hな人人』シリーズの新作3本。プラトニックチェーンの長編『晴れときどき女子高生』。タイトル未定の読み切りマンガ原作、等。ケータイをタッチパネル式の「指書き文字認識」入力に改造してから、目を閉じて、片手で、キーボードよりも速く原稿を書けるようになった。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。