第163回

5月10日「坂の街」

・事務所のある神楽坂のあたりは細くて曲がりくねった坂が多く、そのせいで再開発が難しいらしい。江戸時代の古地図を調べてみると、この界隈だけは現在の地図とぴったり一致する。道路の曲線や太さも、神社や住居の形状も、何百年もの間、全く変わっていないのである。

・この地形のせいで大がかりな工事が非常に難しいのだ。雰囲気のある料亭や屋敷が残ったのもそのおかげのようだ。奥まったあたりを歩くと三味線をかかえた芸者さんを見かけることもよくある。最近また面白い現象がある。昭和初期の遺跡のような古い家屋を改造したカフェが増えてきたのだ。

・一人客が多く、タバコを吸ってる人がほとんどいないので、僕はとても落ち着ける。若い方には、木造の一軒家をほとんどそのまま使っている(上がり口の土間がカウンターバーになってる)『カド』や、二階建ての長屋アパート(というより旧制高校時代の下宿屋って感じの建物)を改装した『茶寮』(=写真)がお薦め。

5月11日「情報培地」

・ウェッブのスタイル(例えばblog)は単なる形式にとどまらず、思考の様式を型にはめていくことがある。その効果は、例えば事実を必要以上に増殖させ、拡大させていくことだ。ネット空間は情報を繁殖させる培地となる。

・世間で騒がれているからと言ってムリに取り上げることはないんだよ。君は本当に自己責任論に興味があるか。年金未納問題に興味があるのか。なければ、無視しているのが一番だと思う。

5月12日「衝撃x2」

・携帯ゲーム新世代機のバトル開幕。

・ソニーの「PSP(プレイステーション・ポータブル)」は、特に日本においてはパソコンに代わるダウンロード端末としての期待が大きい。ゲームだけでなく音楽や映画も含めたコンテンツの流通スタイルを変える可能性がある。

・任天堂「ニンテンドー・ディーエス(仮称)」のポイントはなんと言ってもタッチパネルの採用だ。2画面の真意はこういうことだったのか。画面を直接くりくり触って操作するゲームが新しいブームを作るかもしれない。

・実は一方のソニーは先にキーボードのないVAIO( type U)を発表している。あまり話題になっていないが、この商品コンセプトの先にあるものが実はニンテンドー・ディーエスの本当のライバルなのではないか。

・パソコンとPDAとケータイが融合するとき、操作系の主流がタッチパネルになっていくと僕は予想している(近未来小説の中でケータイを出す時にはそう決めて描写している)。だって、便利なんだもん。例えば文字入力。書き手の癖をちゃんと記憶させておけば、タッチパネルの上をかなりいいかげんにくりくり撫でるだけですごい勢いで文章が書ける。キーボード入力より、肉声入力より、多分速いよ。

2005.12.19 |  第161回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。