第171回

7月1日「フジョシマーケット」

・ゲームは超大作か、超オタク向けタイトルに二分されてきている。この状況を絶望的に捉える向きもあるが、僕はこれはこれで面白いと思い始めている。後者の、つまり一部のマニア向けに作られたものが時に一般層の支持を得てブレイクしていく、そういうヒットが今後はあり得ると思っているからだ。

・例えばボーイズ系はどうか。美少女ゲームよりもさらに尖鋭的なマーケットに向けられたものだ。あからさまな同性愛風味を抑えた作品が、家庭用ゲーム機向きにも多く企画されはじめている。もちろん9分9厘女性ゲーマー向けである。

・中でも『フルハウスキス』(カプコン/7月22日発売予定)には、女性用のときメモとして、40歳以下用の冬ソナとしての爆発力を感じている。主人公の少女は、4人の美青年が同居する豪邸に家政婦として住み込む。そして昼は彼等が通う学園の女教師として働く、という設定。おたく婦女子のMっ気とSっ気を同時に刺激する見事な状況である。そこでおフロを覗けちゃうイベントとか、疲れた相手の体をオイルマッサージしてあげるミニゲームとか、続出。すごい。

7月2日「黒い話」

・任天堂からマイクロソフトに移ってX-boxの宣伝部長やってたあの本郷さんと会う。「脱箱」後は、某飲料メーカーで宣伝部長をやってるそうだ。

・本郷さんならではの業界事情をいろいろ聞いて、盛り上がる。すごく面白かった。

・いえゲーム業界ではなく、飲料業界の事情。例えば「なぜペットボトル入りのコーヒー飲料は少ないのか」という謎が解けた。三谷幸喜さんのエッセイの中で出てきた話だけど、答が書かれていなかったので自分なりにずっと考え込んでいたものだ。思わず「なるほど!」と膝を叩いた。

・ところでソニー・コンピュータ元制作部長として鳴り物入りでX-box入りした宮田さんは、今は某レコードメーカーにいるらしい。

7月5日「ショートムービーの金鉱」

・23歳以下のアマチュアを対象にしたCGコンテスト「TIGRAFユースコンテスト」審査会@CGプロデューサー河原敏文さんのオフィス。成城学園の一軒家だ。

・応募は非常に多く(164本)この審査ではその中から70本を拝見した。とても楽しめた。むらはあったものの、入賞作品は全て、世界に見せて恥ずかしくないレベルである。良かった、良かった。日本で短編映画がいちばん元気な場所はここなのだ。

・CGの世界ではインディーズで、というかほとんど個人で、かなりのレベルの ショートムービーを作ってしまえる環境が整っている。しかしプロになって仕事を始めてしまうとなかなかその時間をとることはできないというのが実状である。だから学生のうちに、力を出し切ってとにかく一本は仕上げておこうという意識が広がっている(これはデジハリの功績だと思うが、今はたいていの学校でそういうシキタリになってるようだ)。つまりプライベート・ムービーの傑作はこのシーンに集まっているわけだある。

・ただし、本当はここで傑作を仕上げることができた人なら、その先プロになっても他のプロジェクトの下請けにつかずに、そのまま自分の感性で作り続けた方が良いケースも多いと思う。このコンペティションでそういう人達のサポートも出来ると良いと思う。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。