第172回

7月11日「黒い話2」

・前回のクイズ「なぜペットボトル入りのコーヒー飲料は少ないのか」の答。「ペットボトル内の飲料は酸化しやすいから」コーヒーはきわめて酸化に弱い飲み物だから、なんだって。たいしたことなくてごめんなさい。

・ただし技術革新はめざましく、最近は酸化防止もかなりOKになってきた。アサヒは遂にペットボトルのビールを出しますね。

7月12日「PS3のコンセプトに期待」

・プレイステーションの発表会「PSミーティング」。携帯版プレステことPSPについてのアナウンスがメイン。プレステ3もこの場にて正式発表となった。

・PSPは小型のAVゲーム端末として最新最高の技術を集積したものだ。スペック的には現時点でこれ以上を期待しようがない。ただこれは垂直方向への進化であり、水平思考、つまり任天堂の携帯ニューハード「DS」でいうところの”2画面”とか”タッチパネル”に当たる新アイデアは、ない。

・ソニーの戦略としては、それで正しいのだろう。10年前に「めざせ100万台」というスローガンではじめたプレステを1億台売ってしまったことは、「奇跡」ではない。ソニーにとっては「仕事」なのである。仕事である以上、それは経済活動として資本主義に則って進んでいく。一家に一台、を達成してもまだ拡大していくしかない。当然次は一人一台。つまり任天堂の、職務ではなく創作によって成立している牙城に切り込んでいくことになる。

・PSミーティングの後のパーティーで壇上に、SCEの創業メンバーがずらりと並んだのがとても感動的だった。現社長の久夛良木健氏、前社長の徳中暉久氏、現副社長の佐藤明氏。それから元副社長の高橋裕二氏、元会長の丸山茂雄氏。既にソニーグループからスピンオフしてる人々までが揃ったわけだ。

・この中にゲームクリエーターが一人もいないことは凄いと思う。SCEは10年の軌跡の中で宮本茂氏や鈴木裕氏のような人間を社内に持たなかったし、創らなかったのである。そこがプレステ文化の特性だ。

7月15日「10代女性に特にお薦め」

・『モンスター』試写。2002年に死刑になった実在の連続殺人犯アイリーン・ウォーノスをモデルにしている。超美貌のシャーリーズ・セロンがものすごいデブのブスに変身して(役作りのために13キロ太ったんだって)殺人鬼の娼婦役を演じきり、オスカーを獲った作品だ。

・不幸な育ちを背景に娼婦に落ちた主人公はどんなに本気で人を愛してもどんなに必死で更正しようとしても、決して、報われない。そして、心の中にじわじわと育つモンスター。表面上はいくらでもチャンスがあるように見せかけて実は白人社会の中でもリッチとプアの境界はすでに明確に線引きされている。

・アメリカの底辺に生まれい出たモンスターは泣きながら、神様に許しを恋いながら殺戮を続ける。ところでアメリカの頂点に君臨するモンスターがにやにや笑いながら続ける殺戮を描いた『華氏911』は今後世界でヒットして、不調のディズニーに代わって多額の外貨を稼ぐだろう。アメリカは今後、文化ではなく主に恥辱や苦悩を輸出していくことになると思う。それは決して悪いことではない。

・主人公がヴェトナム帰還兵の老人と酒場で慰め合うシーンが、良かったなあ。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。