第174回

7月26日「おたく系ギャラリーってある?」

・引き続き渋谷原宿あたりをうろうろしている。若い人の独立志向やクリエーターのビジネス志向は、今ならネットによる情報発信を裏付けにすることができる。そういうパワーが、街の中で渦を作ることがある。そんな現場を探し回っている。

・「デザインフェスタギャラリー」(=写真)みたいなスペースに、やはり魅力を感じる。あの「デザインフェスタ」の常設スペースである。外人専用アパートだったビルを改造して、貸ギャラリーにしたものだ。数坪単位で、格安で借りられるところがポイント。

・中野ブロードウェイはコミケが常設化したもの、というよりも実はインターネット上のオタク系文化が現実世界に露出したものだ。同様に、ネット上のアートやファッションのトレンドが、裏原のショップ群とはちょっと違う形で街に現れはじめている。最近ギャラリーやカフェが面白くなってきているのも、根っこは同じかも。もっといろいろ行ってみよう。

7月27日「ノラ好きに」

・野良猫は、大抵の人々にとって単なる風景の一要素だろう。だが会社や学校の帰り道、人なつこい野良猫をかわいがってしまう。そういう経験は誰にでもあると思う。おいでおいで、とか、ネコネコ、と言って手招きしたりする。しかしそういうとき、クロ、とか、トロ、なんて勝手に名前をつけて呼んでは、いけない。名がついた瞬間からそいつはモノではなく、人格いや猫格を持つイキモノとなる。ほっとけなくなるのである。

・ものすごい荷物(猫エサ)をかかえて毎夜、街を徘徊している猫おばさんをよく見かけるが、きっかけは、そこ。つまり「名前をつけた」瞬間にある。野良猫好きの方なら、この感じ、わかるでしょう。

・さてここから『どこでもいっしょ トロといっぱい』ゲーム紹介。今回のポイントは、トロに教えた言葉が一つ一つ、トロの仲間の黒猫たちの名前になることである。最初は無個性でフギーとしか鳴かない猫が、名付けられた瞬間から個性を発揮し始める。例えば名前の言葉の意味に関係したことを喋ったり。

・やがて猫たちはてんでにコミュニケーションし始める。関係のある言葉どうしで集まってグループを組んだり、ショートコントのような会話遊びをやったり。それがいちいちおかしく、一匹一匹がカワイイ。

・『どこいつ』のポイントは、「言葉」というものの本質的な面白さを想起させるゲームシステムにあると思うが、今回は「言葉」を「名前」にしてしまい、さらにはそれを、個性を持った「生き物」として動き回らせてしまうというアイデアが成功している。

7月28日「ファウスト現象」

・神楽坂で講談社の最年少編集長・太田さんを見かけつい大声で「舞城さあん」と呼んでしまって叱られた。

・『ファウスト』増刷かかったそうだ。部数聞いて驚いた。文芸誌トップじゃないか!

・大人たちが負け続けた’90年代、若者達はくたばっていなかったのだ。無数の個室で造成されたエネルギーが今、日本に、そして世界に向けて噴出する! なんてね。評論家は後追いでファウスト現象をいろいろと説明しようとすると思うけど、僕はやっぱり作家として戦いたいです。枯れないぞ。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。