第176回

8月11日「あの鼻の穴が気になって」

・『箪笥』をもう一回見に行こうと思ったら満員で入れない。当たってるんだー。そこで思い立って、ここ数ヶ月分ハードディスクに取りっぱなししてた韓国関係の番組を一気見。

・NHKテレビの『ハングル講座』が、拾いものだった。『冬のソナタ』の名シーンを使ってセリフを解説したりしていて、これが非常に面白い。例えばクライマックスで主役の二人が苦悩するシーンについて、儒教思想における近親愛タブーの根深さが語られてたりする。余談だけど、韓国ではつい最近までは同じ地域出身で同じ名字ってだけで結婚できなかったらしい……「妹萌え」なんてもってのほかなのである。

・スキットは”しつこく言い寄られて切れる女”(例文は「他人のことにどうしてそんなにたくさん関心があるんですか、太郎さん!」)とか”毎日恋人に電話をするのに忙しい高田さん”(例文は「恋人は韓国人ですか」「韓国人もいるし、日本人もいます」)とか。これ、ふざけているわけではないらしい。韓国の人って初対面でもプライベートなことまで根ほり葉ほり聞くことがある、とか、かなり率直なことをずばりと話したりもする、とか、そういうことの例になっているのである。調べてみると講師の小倉先生は元・電通のコピーライターだと。なるほど。

8月12日「なんかノってきたので」

・丸一日、韓国語漬け。かなり、日本語と近いですね。誰でも10時間もあれば一応ハングルが読めるようになるし、言葉が聞き分けられる程度にはなると思う。2、3日努力すればカタコトくらいは喋れるようになるかもしれない。

・ところで外国語って真面目に勉強したからといって努力に比例してうまくならないものだよね。久々にやってみると、その理由がなんとなくわかる気がする。学問にするということは法則化していくということだ。ハングルの場合、特にこの法則がかなりきっちり体系化しているから、それを手がかりにして学んでいくプロセスになる。しかし言葉は生き物であり、「例外」がすごく多いのだ。

・日本語でいうと「会社」は「かいしゃ」。しかし株式「会社」になると「がいしゃ」と読むでしょう。そこで文法的には「熟語が続くと後の言葉の頭は濁る」という法則を作って教えるわけだ。

・ところが株式市場はかぶしき「じじょう」ではなく「しじょう」のままだったりする。するとそれは例外、ってことになる。法則をふまえて体系的に勉強しようとすればするほど混乱する理由だ。丸暗記してしまう方が早いかもしれない。まず、喋れるようになってから、文法は後から勉強した方がいいような気がしてきた。

・という口実にで勉強を放り出して焼き肉屋に。こんなことだから大人は語学がうまくならないのかもね。

8月13日「韓国語独学方法を考える」

・赤坂の韓国メディアショップ「KAVE」(=写真)に行ってみた。棚はぺ様やイ様の写真がずらり、で、’80年代の竹下通りのアイドルショップみたい。店内は女性ばかり。’70年代少女漫画ブームや’80年代アイドルブームを支えた世代かな。

・DVDや原語版のシナリオブックを買い込む。それから『冬のソナタ』に字幕が入ったバージョンのDVDソフトを見付けた。

・勉強には、ハングルで喋っているモードにハングル字幕が(欲を言えばそのカタカナ読みが)同時表示されるものが一番良いが、それがとても少ないのである。今国内版で簡単に入手できるものとしては他に『フレンズ』(深田恭子とウォンビンが共演したアレ)のDVDボックスがある。

・探していたら深夜にやってるチョナン・カンのTV番組を思い出し、再生してみた。これは使える!

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。