第177回

8月18日「DVDにする」

・コミックスウェーブ社を訪問、竹内社長に会う。新海誠監督の『ほしのこえ』をプロデュースした会社で、それに続く『雲のむこう、約束の場所』で今注目を集めている。もう一息で完成(秋にシネマライズ他で公開予定)らしく、一部を見せていただく。かなりていねいに作り込まれているようだ。特に、長編ならではの間合いによる情緒の醸造に期待できそう。

・新海監督のように作風も世間のイメージもインデペンデント性の強い作家の場合、どこまで個人性を維持しつつどこまでメジャーに展開していくか、プロデュース側としてはかなり悩むところだろう。同社では『ほしのこえ』のプロセスをきちんと検証した上で、あの成功を再生産するためのプロデュース・システムを企画しているらしい。一つの試みとして、インディーズCGアニメのレーベルをスタートするとのこと。

・インディーズのクリエーターでもウェッブで作品を公開して、実力があればすぐにその世界での評価を得ることは可能だ。そういう意味では良い時代になったと思う。でも有名になったところで収入がないのでは困る。評価をどうお金に変換していくか、その方法については真剣に考えるべきだろう。『ほしのこえ』や『スキージャンプ・ペア』の成功例(どちらもウン万本売れているらしい)で、DVD販売という方法論については見えてきた。

8月19日「マンガにする」

・少年ジャンプの「デジタルマンガ賞」をお手伝いしている。ウェッブページhttp://jump.shueisha.co.jp/henshu/digital-mangaでは受賞作品の公開だけでなく、注目作家の連載もスタートしている。今日は編集部メンバーと一緒にまる一日、作品の吟味や選定を行う。

・ここでも、インディーズCG界からの参入で注目の作家が何人かいて期待できそう。3Dの技法でマンガに参入してきた森本護さんの作品など、CG作家の方々にもちょっと見てみていただきたいと思う。こういうやり方もあるのだ。マンガという形式は課金配信にもパッケージ販売にも向いていると思う。才能が収益に変わる場所の一つになるといいんだけど。

8月26日「フィギュアにする」

・CG業界のリサーチを久々に、本格的にやってみることにした。今はネットを走査するだけでかなりのことがわかるのでありがたいが、せっかく都心にいるのだからいろいろなキーパーソンを回ってみよう。

・今日は美少女ゲームの大手、アルケミスト社の浦野社長と会う。以前ここでちょっと書いたけれども、浦野さんは自社の美少女ゲームのムービーシーン制作などに、インディーズのCG作家を多く起用している。

・アルケミストのサイトに起用された「びんちょうタン」という萌え系キャラが最近ブレイクしている。インディーズのカリスマ作家が生み出し、ネット上では自主制作アニメが配信されたりしていて人気だったものが、今ガチャガチャのフィギュアとして売れているのだ。つまりコンテンツは無料で配信されるが、儲けの回収はキャラクター商品、つまり形のあるモノとしてちゃんと行われるというわけ。これも有効な課金モデルといえる。

2006.01.02 |  第171回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。