第178回

8月26日「なぜテレビ局が強いか」

・CG業界のリサーチを続けている。今日はTBSに行き、曽利文彦さんに会った。『ピンポン』『アップルシード』と続く快進撃で今や世界的な有名人だが、相変わらずとても腰の低い方である。自己紹介が「アイムソリ」だけに。

・現在進行中のプロジェクトについてなどいろいろお話を伺い、その緻密な戦略に感心した。デジタルの映画というと、一つ一つがどうしても長大な期間を費やす仕事になってしまうものだ。そういうところで計画的に着々とノウハウを蓄積しているところが尊敬に値する。デジタルシネマについてもフルCGアニメについても、ゼロからスタートしてちゃんとセールス実績を上げるところまでを経験したプロデューサー・ディレクターは数少ないのだ。

・どんなに勉強した人よりもカネ持ってる人よりもシステムを持ってる人よりも、実際に経験した人が強い。とすると、環境として今はやはりテレビ局が有利と思われる。

8月27日「見た”目”がいい」

・ではハリウッドの最新CGはどうだろう。というわけで『ガーフィールド』の試写を見る。

・あのコミックキャラクターをそのままのイメージで立体化し、実写世界で活躍させる。人間の俳優どころか、実物の猫や犬たちと絡ませてもまったく違和感がない。その理由は、造形の緻密さや動作の正確さなどではない。

・美しい毛並みを再現したり本当の猫のモーションをつけたりすることは、もうアマチュアのクリエーターでもできることなのだ。しかし、どんなにがんばってリアルにしても、なぜか死体が動いているようなものになってしまう……と悩んでいる人は、この映画のガーフィールドの目玉の動きを研究してみるといいと思う。人間の脳って生き物の目にすごく敏感なのである。その表現にさえ成功すれば、かなりデフォルメしたキャラでも生き生きと見せることができるという証明がここにある。

8月30日「降臨」

・スクウェア-エニックス社に行って、制作中の映画作品『アドベントチルドレン』のラッシュを見せてもらった。

・剣と魔法のファンタジーを未来SFと融合させた独特の設定を3D-CGによって精密に構築していく、例によってのFFワールドである。体温の低そうな、つるんとした顔のキャラクターたちがすごいテンションで戦い、愛し合い、苦悩し、冒険する。

・シナリオとしても、映像のテイストとしても、今回の試みはあくまでもゲームの延長のようだ。つまりゲームのムービーシーンを拡大して、一本の映画にしてしまおうという試み。そのためにシリーズの中で特に映画的な物語性が強い「FFVII」が再活用されることになったのだろう。この映画では、あのゲームの世界の2年後を描いている。復興しはじめた世界に、懐かしいキャラたちが2歳ずつ年を取って再登場する。

・同一の一画面の中にいろんなものを詰め込もうという「マルチメディア」の発想はすたれた。今後は、別々の画面からべつべつのコンテンツで一つの世界観を語るというやり方が有効になっていくだろう。デジタル上映のインフラがやっと普及してきて、ゲーム会社の映画界へのアプローチは期待されるところであるが、方法としてはこれが正道だと思う。

8月31日「久々に晄という字を見る」

・山手線各駅の広告を見かけ、ケータイ版の「FFVII」外伝『ビフォア・クライシス』をプレイしてみる。同じ「FFVII」の”2年後”以後を見せる『アドベントチルドレン』に対して、これは”6年前”の話。

・β版だし、当然ものすごく混んでいるが、プレイの価値あり。マニア以外には、オンラインゲームとしての特性が新鮮かも。ネットワークを介して他のプレイヤーとの同時アクションができたり、敵に捕らわれた時にネットにアクセスして仲間に助けを求める、なんてこともできる。またケータイに標準装備のカメラを使って身の回りのものを撮ればその写真が様々な種類のマテリア(戦闘時に、魔力の素になるエネルギー体)に変化するなど、新しいゲーム性も多数。

2006.01.03 |  第171回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。