第179回

9月2日「杉山さん」

・CG業界リサーチの日々。デジタルハリウッドの杉山校長と会う。杉山さんに初めて会ったのは1991年、アメリカ在住の異常天才プログラマーの人に紹介された。当時からあの風体だったので、正直言うとヒッピー崩れのハッカーかと思っていた。

・今はそのスタイルが高円寺の街にもしっくりと馴染んでおられる。この人くらい一貫した人は珍しい。デジタルコンテンツやネットワークについても、当時から今と同じ様なことを言っておられた。世の人々はその後90年代中盤、彼の言っていたことがどんどん現実化してから驚くことになるわけだ。

・MITから日本に戻ってこられた直後で、最初は大学の中に籍をおいていろいろな機構、機能を立ち上げようとしておられたように記憶している。その後大学を離れられて~ベンチャーの立ち上げを手がけられ~そして専門学校、大学院に続いて~今はまた大学を、それも1から作ってしまうという仕事に忙殺されている。スタートラインの大学からまた大学に、それも従来とは全く違うスタイルの大学へとたどり着かれたわけだ。

・その流れから、多くの優秀なクリエーターが育っている。最近はほとんどの大作映画のCGシーンにデジハリ卒業生が絡んでいると言われている。ただ僕が今興味があるのは個人作家が、インデペンデントのスタンスのままでお金持ちになっていくような状況が作れるかどうかということだ。デジハリからブレイクした『スキージャンプ・ペア』は15万本も売れたらしい。

・ヒントをいろいろと頂いた。極私的なこだわりによって創られたアマチュア作品を市場に売り出そうとする時、商品としてどうブラッシュアップするか、そこでどうプロの手を入れるか、そのあたりが非常に重要のようである。

9月3日「境さん」

・東京国際映画祭の事務局で、局長の境さんとミーティング。共催イベント『東京国際CG映像祭』をお手伝いすることになった。

・経済産業省でコンテンツ産業振興の様々なプロジェクトを担当されていて業界ではとても有名な方だが、実はこの人が高校生の頃、見かけたことがあるということを知って驚いた。当時はアップルIIで市販用ゲームを作っている天才少年だった。

9月6日「仙頭さん」

・CESA主催の講演会にて、仙頭さんと対談。世界の映画賞を総なめにした、そして今でもなめ続けているスーパープロデューサー。

・「プロデューサー」というのは一体どういう仕事をする人なのか。どういう役割を負うべきなのか、という点を中心にいろいろと話を伺った。そこで「映画は会社であり、プロデューサーが社長、監督は工場長。出資者は株主と想定する」という説明が面白かった。映画とは一作ごとに一件のベンチャービジネスを起ちあげるということだ、と。

・仙頭さんはデジタルシネマへの取り組みも早く、そしてゲームへの理解も深い人である。これから、いよいよゲームのプロデュースも本格的に始められるということ。またその両側にまたがるものとして、ブロードバンドへの対応も手がけられているそうだ。門外漢の発言で申し訳ないが、映画のデジタル化(制作だけでなく興行まで)については、フィルムによる興行ネットワークが「既得利権」として重要なものになっている大手には不可能なことも多い。こういう人に期待したい仕事がとてもたくさんある。

・ところでこんな感じで日々業界有名人に会った話を書いていると、なんかIT系の大金持ちビジネスマンのblogみたいですね。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。