第187回

10月29日「重力ばんざい」

・女子プロレスゲーム『ランブルローズ』(PS2/コナミ/2月発売予定)のサンプル版をプレイしている。3Dキャラクターの造形と挙動は非常に緻密。特に乳房部分の重力対応設定は瞠目に値する。

・ていうか、いいんですよこれが! エロくて、カワイくて、カッコいい! 巨乳。くんずほぐれつ。泥レスもあり……と、こう書いてると大味なバカゲーと思われるかもしれないけど、違う。個々のレスラーの体のつくりや仕草が繊細で、ゆえにレスラー一人一人がとても愛らしいのだ。WWEのディーバのような暑苦しさがない(いやディーバも好きだが)。この仕上がりは日本の職人的CGクリエーターの技量ならではのものだろう。アメリカ市場でまず先に売り出すみたいだけど、日本の美少女萌えゲーマーにも受けるのではと思う。

・それぞれのキャラクターは様々な格闘技界を代表して参戦してきていて、見た目や持ち技だけでなく、背負っている事情もそれぞれ、ものすごく濃い。
 日ノ本零子……日本人のスポコン女子大生。レースクイーンのバイトをしている。アメリカ遠征中リングに散った伝説のレスラーを母に持つ。
 アイーシャ……ショウビズ界に君臨するドル箱スターだが、護身のために始めたグレイシー柔術を極めてしまったのでレスラー転身。もちろんリングでも延々と歌い踊る。
 デキシー・クレメッツ……テキサスの大牧場の一人娘。暴れ牛をヘッドロックで倒したことがある。
 アイグル……遊牧民。モンゴル相撲の使い手。巨大な馬に乗って入場してくる。
 紅影……信州で極秘に訓練を続けている忍者部隊乙組のくノ一。日本政府の特命により送り込まれた。
 レベッカ・ウェルシュ……女子高生。ミニスカのコギャルファッションのまま闘う。
 ミュリエル・スペンサー……レベッカの担任教師。不登校の教え子を追いかけて来たつもりで思わず参戦してしまう。
 etc.etc.etc….。試合をクリアするたびにそんな各キャラクターの物語が展開していく。やめられない。

10月30日「CGの最先端」

・六本木ヒルズ・タワーホールにて、東京国際CG映像祭。東京国際映画祭の共催イベントとして3年前から行われているものだが、今年そのコンセプトが一新され、今の日本で一番元気なコンテンツをフィーチャーしていこうということになった。必然的にゲームやアニメや国産のデジタル・シネマをメインに扱うことになり、それで僕にもお呼びがかかって、ここ数ヶ月間ばたばたとお手伝いしていたわけだ。CG業界の動きを改めて勉強する良い機会になった。

・蓋を開けてみるとありがたいことにチケットは完売、行列が六本木ヒルズを取り巻き、開場を早めざるを得なくなるほどだった。今日のステージは、インディーズ特集から。デジタルハリウッド校長の杉山氏、コミックスウェーブ社長の竹内氏とディスカッション。まずは『ほしのこえ』と『スキージャンプ・ペア』の成功例を題材に、次には最近の注目若手クリエーターの作品群を上映しつつ、大いに話す。お客さんの雰囲気もとても良くて、大爆笑あり、大拍手あり、楽しかったです。特に杉山さんが「テレビなどではなかなか流せない……」と言って推薦して下さった木村卓史さん作『打つ娘サユリ』には全員(?)悶絶。

・最初に自分の出番を終えたおかげで後は客席からリラックスして観ることができた。CGプロデューサーの倉澤氏による『鬼武者』シリーズのメイキング解説。そしてプロデューサーの橋本氏ほかスクウェア-エニックスの方々による『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』プロジェクトの解説。他のどこでも観られないような資料映像が出てくるたびに、会場はため息に包まれる。みんな、ちゃんとわかってるのである。さらにQ&Aコーナーでは登壇者を困惑させるほど専門的な質問が続出。この観客の世代が、すぐに業界に入ってくるのだろう。

10月31日「あの煙の謎が明らかに!」

・東京国際CG映像祭、2日目。まずは、慶応大学SFCでデジタルシネマを研究しておられる稲蔭教授による、最先端の映像制作手法についてのプレゼンテーション。ネットワークを活用して世界各地のチームがコラボレーションする、あるいはカメラ付きケータイを使って制作する、などの試み。

・続いて、『スチームボーイ』のメインスタッフによる、メイキング解説。特に面白かったのは、大量の原画をパソコン画面上に並べ、速度をいろいろに変えながら切り替えてみせてくれたところだった。動きや質感のマジックのタネは全て原画に仕込まれていることがよくわかった。特にこのアニメは煙の質感表現が凄いのだが、驚いたことに、それもかなりのところまで手描きで行っているのである。

・CGに頼り切ると、それが表現の足かせになることがある。日本のアニメはCGを使いこなしながらも、必要とあらばいつでも手作業でその先を行ってしまう。欧米の映画監督はそれを観て「あんなすごい映像をCGで作りたい」と思うらしい。それが、CGツールの進化を促しているのだ。

・微に入り際を穿つ解説の直後、会場隣の映画館・ヴァージンシネマズにて『スチームボーイ』本編の上映があった。これはもう一度観るしかない。

・そしてこの映画館で『ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン』特別編集版の上映も行われた。これのために遠くから来たファンも多かったのではと思う。ゲームの『FFVII 』の2年後、あのキャラクターがあんなになってあんなに動いてあんなことやこんなことをする!! ファンにはもーたまらん映像である。終映後、感極まって泣きじゃくっている女性客もいたぞ。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。