第192回

11月27日「漫然と冒険したい」

・もちろん『ドラゴンクエストVIII 』。

・3D化に成功している。FFとも、あるいはニモやシュレックとも違う独自の映像世界。漫画やアニメのイメージがそのまま立ち上がったような空間。それがとてもしっくりと安定していて、心地よいのである。街の外に出て大自然が広がるさまに臨むと思わずうひょーと歓声を上げたくなる。

・急いでやって50時間、ゆっくりやって100時間という噂だ。発売当日のうちに終わらせた人の話を聞いてぶったまげたが、なーんだ、あんたゲームラボの人じゃん。僕はもうこのゲームはできるだけじっくりやることにしようと思っている。だからレビューの依頼もほとんど断った。完全にプライベートモードで、できれば1000時間くらいに引き延ばせたらいいなあと思う。山あり谷あり皮あり森ありの空間をただ駆け回って、時には狩りにいそしむ。そんな時間の素晴らしいこと。

11月28日「本当の原作は小説なんだけど」

・『オペラ座の怪人』試写。ミュージカル舞台バージョンをほとんどそのままのイメージで映画化。大半の台詞はうるわしく歌い上げられている。オペラやマスカレードの絢爛豪華さとあいまって、相当に満足というか満腹な作品。

・デ・パルマの『ファントム・オブ・パラダイス』(傑作!)のように、映画ならではのアプローチで仕上げてほしかったとも思う。オリジナルのミュージカルは1986年からずーっと満員御礼を続けているのだから、こういう形の二次展開は、金の卵を産み続ける鶏を料理してしまうような行為かもしれない。それだけハリウッドのネタ不足は深刻ということだろうか。

11月29日「オキメグに全米デビューしてほしかった」

・『THE JUON』試写。邦画『呪怨』のハリウッド版リメイク作品だが、オリジナルの清水崇監督が再びメガホンをとり、そして撮影は日本国内で行われた。それが全米公開で興行収入ナンバーワンを記録したのだ。日本人監督初の快挙である。

・この世のあらゆる怖いものを掘り尽くしてしまい、しまいにはゾンビに全力疾走させてしまったハリウッドは今、日本のホラーに注目している。そこでリメイク権をきちんと売るというパターンもありだ。それだけでもクリエーターは大金持ちになれる(この場合原作者だけでなくオリジナルの監督に対するペイもきちんと保証されていて、それぞれ数億円の収入を得たという例もある)。でも清水監督のように自分で監督までして評価されるというパターンは本当に素晴らしい。プロデューサーのサム・ライミも偉いぞ。

・上映の前に清水監督の記者会見もあった。朴訥としているようで、冴えた人ですね。特に印象に残ったのは、この人が(多分無意識に)「怖がる」と「笑う」を同義語として使っていたことだ。

・日本の怖くて笑えるホラーの感覚は、「お化け屋敷」とか「見せ物小屋」の文化の上にあると思う。これを、観光資源として使っていくというのはどうだろう。決してホーンテッドマンションに対抗しようとしてはいけない。熱海あたりのすたれた温泉旅館を改造して、外国人客を誘致する。一晩中おどかして、喜ばせるのだ。

11月30日「そして一番のオススメは」

・『オールド・ボーイ』。個人的には『悪魔のいけにえ』以来の衝撃。とにかく見てほしい。それも恋人や家族とではなく、一人で。映画の悪魔に魂を売り渡さないとこんなものは作れないと思う。

12月1日「どうでもいい話ですが」

・二ノ宮知子さんの漫画みてたら自分が出てた。

(C)二ノ宮知子 祥伝社

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。