第202回

2月18日「プロ作品を凌駕する輝き」

・銀座のギャラリーにて、「東京国際アニメフェア」コンペティションの審査会。作品の質が高いところで拮抗し、票が割れた。議論は白熱し、何度も決選投票が行われることに。

・個性が強い作品どうしを比較するのはとても難しい。こういう時は作品そのものだけでなく、審査する側の姿勢をも自問することになる。特に、商業性と作家性をそれぞれどのように点数にしていくか。

・このコンペの場合は東京都の産業振興という視点が第一義になるのだが、メジャー作品に勝るとも劣らない作品がずらりと並ぶと、作家の将来性までを見極めていきたいということになる。振り返ってみると、「もっと長く見たい」とか「次の作品を早く見たい」と思わせてくれる作品が、やはり強かった。

・逆に言えば惜しくも落選していった作品には「ちょっとだれている」「もう少し刈り込めば」……と思えたものが多かったのだ。アニメの場合、完成後に削り込むことは心情的にとても難しいと思う。しかし長い作品が力作とは限らない。ショートムービーは自分で思うよりさらに2割くらい削るというのがコツのような気がする。シナリオ段階でそれができるのがプロだ、ということかもしれないが。


2月21日「元虐待児童におすすめ」

・『ハイド・アンド・シーク』試写。母親の自殺を期に自分の世界に閉じこもるようになった少女は、やがて見えない友達「チャーリー」とかくれんぼ遊びに興じるようになる。心理学者である父親はなんとかその心を癒そうと努力を続けるが、浴室に母親の自殺現場を再現するなど、彼女の遊びはだんだんと異常性を帯びてくる。

・デ・ニーロ演じる父親の視点でストーリーは進むが、娘のダコタ・ファニングの演技が圧倒的。とにかく可愛くて、可哀想で、怖い。この子本当は30歳なんじゃないかと思わせるほどだ。ひどい日常をやり過ごすために狂気を飼い慣らそうとする、という状況は、子供の目線から観るととてもリアルである。後半観客はそんな娘側の視点にハマりこんでいくことになる。

・クライマックスではチャーリーがじわじわと実体化していくところが見せ場になる。一刻も早く結末が知りたくなって、ビデオで見たらつい早送りしてしまいそうだから、これは劇場の暗闇で見るべきでしょう。このあたり、表現上の狙いが昨今のJホラーと近いところにある。ゆえにハリウッドと東京の比較サンプルとしてとても有効なものだ。

2月22日「女性版シュワルツェネッガーになれるか」

・『レジェンド』試写。最近注目株の、中国産スペクタクル・ムービー。三蔵法師が遺した秘宝をめぐるトレジャーハンターもの。中国大陸4000キロを横断してのロケを敢行。大自然や主演は元ボンドガールで、『グリーン・デスティニー』でオスカー候補にもなった国際女優ミシェル・ヨーがプロデュース……とメジャー作品のお手本のような企画なのだが、個人的には、ミシェル・ヨー自身が主演までやってしまってるところがツボだった。42歳の彼女が19歳くらいじゃないとおかしい設定の役を堂々と演じているのだ。観てる間じゅうずっと「すごい」と「変」を同時に感じることができる。

・善人と悪人がはっきりしてるところや、運命に伴って天候も変化するところなど、京劇的というか大映テレビ的なノリも、オレオレ映画として観れば腑に落ちる。香港映画、ハリウッド映画、それぞれにベタというかコテコテというか「わかりやすすぎなところ」がある。この映画はその両側にまたがる魅力をたたえている。

・見えないものの恐怖を描く、というノウハウは日本映画にもあるはずだ。怪獣映画だって、当初は「大きい」ことではなく「大きすぎて見えない」恐怖が神髄だったのだ。

2006.01.25 |  第201回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。