第205回

3月7日「雑談と執筆の境界」

・集英社jBOOKSサイトのウェッブトークコーナーの取材を受ける(http://j-books.shueisha.co.jp/rensai01/top.html)。『晴れときどき女子高生』の連載は完結し、ウェッブ上の小説もまとめ直して頂いているので、アクセスしてみてください。

・ネットはだらだらとした雑談の雰囲気を伝えるのに向いている。ただし、こういうコンテンツの力の入れ方は微妙に難しい。今多くのライターが、個人作業としてのネットライティングと仕事としての執筆を両立させる難しさに直面している。そして皆さん、それぞれに方向性を見いだし始めているようだ。例えばブログと単行本出版を両立するスタンスはありだろう。

3月8日「風と人と物と語」

・『風人物語』というアニメ作品を拝見した(テレビシリーズ全13回/「スカパー!BB」他で視聴可)。作品についての渡辺のインタビューコメントはマンガズー(www.mangazoo.jp)に載る予定です(3月末~)。

・普通の女子中学生の日常をたんたんと描く。そこが主眼。主人公のナオが「風を操る」能力を得る、という設定はあるが、それが特に特別な能力だというわけでも、それで世界を救うというわけでもない。ほとんどの時間、何も起こらない。ただ風が吹き、彼女たちは時に憂鬱になったり時にときめいたりしながら日々をやり過ごしていく。

・主人公をはじめ登場する中学生達は揃ってぶさいくで、ぶかっこうだ。目は一重まぶたで吊ってて離れてる。足は短くて尻は大きい。言葉も行動も空回りするばかり。そこが胸に来るのである。自分の中学生の頃って、こんな感じだった。身近なところに性欲を刺激するような女の子なんていなかったし、友達や大人との関係もただ、うざったかった。そこには青春の実感も、将来への希望もなくて、むしろごく自然に、ふっと屋上から飛び降りていても不思議ではなかった。

・そうだ僕もナオと同じように、あの日あの屋上から、飛び降りた記憶が確かにある。じゃあ僕はなぜ、いまだに生きているんだろう?

・押井守氏が監修し、プロダクションIGが制作。監督は西村純二氏、音楽は川井憲次氏……と、今この布陣だとどうしても大作か、そうでなければ芸術的傑作を期待されてしまうだろう。しかし、そこであえて、「普通の作品」を作る、というのが彼等の主眼だったのではないか。超一流スタッフで、良い意味で「凡作」を創り出す、というのが。

・「第1回アニメ企画大賞」を受賞した原案を化したものらしい。つまり、アマチュアの企画に乗る、という大義名分の下だからこそ、そんな企みが成立したのではないか……と、これは嫌な大人の、邪推。

3月12日「黒にも白にも染まず漂う」

・『レーシング・ストライプス』。競走馬に混じって走るしまうまの話を、実写映画で。動物をデジタル技術で人間のようにリアルに演技させられるようになって、「差別」というテーマを逃げずに、きちんと描けるようになった。

・子供達に見せたいけれども発禁もしくは自主規制になっている物語がとても多いが、今後、その同じメッセージを別の形で創り出すことも出来ると思う。

・さて上野動物園の白いカラスはとても美しい。カラスなのに白かったせいで動物園の檻の中の暮らし。でも白カラスは外に出ると即座にいじめ殺されてしまうらしい。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。