第226回

8月15日「セックスではなく交尾を見る」

・『愛についてのキンゼイ・レポート』。1948年、全米1万8000人の性生活についてアンケート結果をまとめた『キンゼイ・レポート』は、発刊と同時に一大センセーションを巻き起こした。当時タブー中のタブーだったテーマを選び徹底調査を敢行したアルフレッド・キンゼイ博士の目から、セックスはどう見えていたのか。彼はどんな情熱を持ち、既成概念にどう立ち向かったのか。

・もともと動物学者だったキンゼイは、野性動物や昆虫の交尾を観察するのと同じ目線で人々の営みを見つめ続ける。その極めて客観的なスタンスは自身の性生活にも及ぶ。自分の浮気のことを妻に対して大学の講義と同じ調子で言い訳したり、一家団欒の席で娘に対して「外陰部を開くとうまく入る」と教えたり。淡々と語られるエピソードは、しかし蛭子能収さんのマンガのようにシュールでもあり、なんか笑い始めると止まらなくなってしまう。

・最終的にこれがとてもピュアなラブ・ストーリーになっていくのである。ペンギンの繁殖行動を描いて純愛映画に仕上げてしまった『皇帝ペンギン』と真逆のベクトルに進み、同じところに行き着いた作品と言えるかも。

8月16日「懐かしい未来」

・『ファンタスティック・フォー』。マーベル・コミックのキャラクターがまた実写化。なんと1961年の作品からの発掘である。宇宙放射線を浴びた4人が、それぞれ別の超能力を発揮するようになる。炎を吹いて飛行したり、全身を透明化したり、皮膚を岩のように硬くしたり。各キャラクターが以後ダース・ベイダーの造形や『Mr.インクレディブル』の設定に引き継がれた、という古典的名作らしい。

・4人それぞれが”怪物”になったしまったことに悩み、なんとか元の人間に戻ろうと苦労する話が大半を占める。そういう自分をやっと受け入れ、ヒーローとしての活動を始めるところまでで時間切れ。続編作る気まんまんなんだよ、という姿勢を見せて終わるタイプの映画が最近は多いよね。

8月21日「オリジナリティーの勃興」

・ワンダーフェスティバル。立体物ならなんでもありの展示即売会。昔は裏ビデオやどう見てもやばい経路から入ってきたと思われる中古商品まで並んでいたものだが、今はロリものでもとても洗練化されている。これは規制にびびっているのではなく、ある種の「美学」が成立したということだと思う。

・バンダイ系キャラが消えた代わり、創作系が急増している。参加者の目もとてもこえてきていて、主流の美少女ではなくても、例えばカエルのフィギュアでもすごい出来のモノはあっという間に売り切れていたり。今後ここはますます面白い場になっていきそうだ。

・コミケよりはゆったりしていて、ぶらぶら歩き回っていても楽しい。著名クリエーターが趣味の延長の本気で参加していたりする。例えばカリスマ絵師の岡崎武士先生がブースを出して通の注目を集めていた。マンガ→CGイラスト→3DCGという流れからフィギュア制作を始め、いきなり天才ぶりを発揮してしまっているのである。

・スタジオハードの高橋社長によると、あるブースでは一体3万円の綾波フィギュアが朝の15分で200体、完売したそうだ。今この世界のモノはそれくらいの商品パワーを持ち得るのだ。

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。