第228回

9月2日「象は出ません」

・『奇談』。原作は諸星大二郎の『生命の木』。Jホラーの勢いはとどまるところを知らず遂に禁断の原作にたどり着いた! というのは大げさか。諸星ファンならおなじみの考古学者・稗田礼二郎を阿部寛が演じる。そして何千もの人々の肉体が絡み合い巨大な一つの生き物のように動くあの表現がしっかり映像化されている。

・東北の隠れキリシタンの里として知られる渡戸村で連続する神隠しの謎を追っていく。その場所のさらに奥地には、村八分にされ隔絶された「はなれ」という集落がある。村人達はその存在を恥として隠している。

・「近親婚が続く山奥の集落」はそのために人々の「知能が低い」、という設定がはっきりと語られる。隠れ里という設定は映画の素材としてはあまりにも魅力的なのだが、被差別部落の描写はずいぶん長い間、日本の映画界でタブーとされてきたものだったわけだ。「Jホラー」「歴史解読ミステリー」という文脈から、そこを切り崩すということだろうか。

9月10日「お菓子であり興奮剤でもある」

・『チャーリーとチョコレート工場』。原作はロアルド・ダールの『チョコレート工場の秘密』。そして映像としては’71年の『夢のチョコレート工場』をリメイクしたもの。ただし最新技術によってさらにサイケでキッチュなものとなり、ジョニー・デップの怪演が際だっている。おかげで、カルト性はかえって強まっている。

・ダールは穏やかな文体から刺激的なオチに繋がるアイデア・ストーリーの名手だったが、その作風のままで、子供向けの作品もたくさん残している。美しいファンタジーのふりをして、世界中の少年少女達にきつい刺激物を飲ませてしまってるのだ。冒険物語のヒーローが性病で死んでしまったりとかね。この企み方が僕はとても好きだ。こういう毒は子供達の体内で熟成され、いつか滋養になるのである。

・『チョコレート工場の秘密』はその路線の代表的作品であり、子供の頃に読んでトラウマになっている、という人も多いことだろう。ティム・バートンも、ファンタジーのふりをして既知外映画を見せてくれる監督である。彼等が偉いのは、それをメジャーで堂々とやってしまっているところなのだ。

・ところでガムを噛みながらチョコレートを食べてみて下さい。面白いことが起こります。

9月11日「メイドだらけだ」

・中野系メイドめぐりコース。魔窟・中野ブロードウェイ4階は『ティールーム・アリス』。いい具合に狭いおかげでアットホームな雰囲気。同じフロアに『メイドゲーセンTRF』。メイドさんが客の相手になってびしびし格ゲーやってる。ブロードウェイは近々3階にもメイドカフェがオープンするぞ。

・そして中野駅の反対側にはメイドバー『エデン』。伝説の双子メイドはここにいる。んだけど、出勤日は不定。さらに南下して東高円寺まで行けばメイドマンガ喫茶『ハンドDEメイド』もあり。ボードゲームとかの相手してくれるよ。ただし時間帯によってはメイドさん不在。

・メイドゲーセンではガチャポンでメイド生ポラを売り始めた。いつもあっというまに売り切れてる。いったいこのブームは何の予兆なんだ。

2006.02.19 |  第221回~

PROFILE

渡辺浩弐
渡辺浩弐
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。